NYのYMCAでメープル・ハイク

JFケネディ空港に到着ウィメンズ・ウェルネス・ウィークエンドのカバンYMCAのレイクビューロッジメープル・トレイルに出発!シロップ採取を説明するガイドシュガーハウスが見えてきたシュガーハウスの看板透明度について説明するヘザー天井からボトルがぶらさがるシロップを試飲する

JFKでチョンボ1発。どんまいどんまい。

へーえ、ニューヨークでメープルシロップ、とれるんだ。東京のナオコさんが2年前、NY旅行の土産に贈ってくれた。すっきりまろやか、やさしい甘さの琥珀色だった。現地在住の友人が働いていたYMCA産という。いつか行ってみたい。すべてのタイミングがあって2年後、正夢になった。

米系航空会社に乗るのは10年ぶりだろうか。笑っちゃうぐらい期待通りの無愛想ぶり。変わっていないなぁ。感心しつつ空の上で13時間を過ごし、JFケネディ空港に降り立った。

あれ、ないーっ。

生後9カ月を迎えた丁稚ケイをコアラみたいに抱っこする。左手でスーツケースを転がして…と。あれ?右手がスースーする。預けたはずのチャイルドシートが、ないーっ。

受け取り忘れて税関を出てきてしまったのだった。アホー。まぁよかった、ケイを忘れたわけじゃない。もっとも私のことだ、いつかやりかねないが。

慌ててバゲージ・クレームに走る。女性係員は言った。「大丈夫。あっちで受け取って」。引き返すと係員が見覚えのある緑色のシートを手に、出てきたところだった。

あーあ、こんなんで大丈夫かいな。北米横断20日間の始まりだった。

摩天楼から2時間半、ここもニューヨーク。

ナオコさんの中学時代からの友人ケイコさんが車を出してくれた。桜が咲き始めた摩天楼から2時間、まだニューヨークだった。「いまの雑貨屋さんが最後の店ですから。大丈夫ですか」。

そう言われるとコンビニ天国から来た身、ちょっと焦る。ま、何とかなるだろう。

緑の木々に囲まれて家々がぽつぽつある。「大草原の小さな家」みたい。川沿いを走ること20分、「フロストバレーYMCA」にたどり着いた。「うわー広い」。

どこまでも続く森に渓流、湖…。敷地はJR山手線の中ほどあるという。たった1泊じゃ探検しきれない。

「女性のための学びの場」だった。

ログハウスの管理棟でチェックインする。紫色のかばんを渡された。「ウィメンズ・ウェルネス・ウィークエンド」と書いてあった。ちょうど年に1度の女性向けイベントが開かれる週末にあたったのだった。

ピンク色のプログラムを開く。「ヨガ」「瞑想」「ブロードウェー・ダンス」「水彩画」「陶芸」…20以上のクラスが並ぶ。面白そう。

宿泊代は60ドル(5000円)ほど、クラスと食事代は別途という。安くはないが大人の女性が集い、子育てや仕事とは別のコミュニティーで、社会にかかわり、学び続ける。

こういうプログラムが日本にもあればいいのに。いい休みの過ごし方だな。温泉に行くよりよほど心と体に効きそう。いや温泉もいいけれど。

メープル・ハイクに操を立てて。

ときめきながらも浮気は禁物、わざわざ来たのだ。「メープル・シュガー・ハイク」に操を立てよう。試供品のオーガニック・スキンクリームやシャンプーをもらう。

「Chikako&kei」と書いて名札を首からぶら下げた。「きっと彼が唯一の男性よ」。スタッフにウィンクされた。

まだ木が香る新しい「レイク・ビュー・ロッジ」に泊まる。その名の通り、窓いっぱいに湖が映る。うーん、別世界。でもここもニューヨークなんだ。

翌朝「メープル・シュガー・ハイク」へ

ハイキングに集まったのは11人だった。「はい、ナンシーよ」「私はチカコ」。名札を見せ合う。30〜60代ぐらいだろうか。

帽子に山歩き靴、チェックのシャツといった「いかにもハイキング」がなくてホッとする。鮮やかなショールを巻き、これからディナーショーへ?と問いたくなる女性もいた。いいな、このテキトーっぷり。

無謀母も負けじ。スニーカーに抱っこひも姿で森の住人になった。

ガイド役のスタッフは森の生態を学ぶ大学院生で、YMCAで1年間の研修中という。午前9時45分、しゅっ ぱーつ。

カエデの木立に青いチューブが張り巡らされている。樹液をとるためだった。「でもシュガー・シーズンは終わりました」。スタッフが言った。

残念、やっぱり間に合わなかったか。

メープルシロップは年中、とれるわけじゃない。最低気温が-4℃、最高4℃ぐらいになると透明の樹液が流れ出す。雪解けのころ、早春を告げる風物詩という。

フロストバレーYMCAでは2012年、2月24日に採取が始まり、3月14日が最後だった。私たちが行く10日も前に終わっていたか。ならばあきらめもつく。 ニューヨークは20℃を超え、3月下旬とは思えぬ暖かさだったから。

山道を歩く。途中でスタッフがしゃがみこんでいる。オオカミに似たコヨーテの落とし物だった。へえ、いるんだ。「昨日の夕方、鳴き声を聞いたわよ」。だれかが言った。

三角屋根のシュガーハウスへ。

ハァ、ハァ。カメラと赤子をぶら下げている身、山道がきつい。たった30分ほどだから無意味な根性一発、何とか歩こう。大きなタンク2つがくっついた三角屋根のログハウスが見えた。

樹液を煮詰めてシロッ プにする砂糖小屋(シュガーハウス)だった。やっと着いた。ゼイゼイ、私だけ息が切れている。テキトー・スタイル・山登りニューヨーカーは平然としていた。みんなタフだわ。

小屋に入る。私たち以外にも続々、グループがやってくる。壁に雪原を歩く「かんじき」や肩に下げる。天井にはたくさんのボトルがぶら下がっている。

1ガロン(3.78リットル)のシロップを作るために、樹液の糖度によって30〜40ガロンほどが必要であると示していた。環境教育の場になっているんだな。

ケベック〜ニューヨーク、実はお隣さん。

3人のメープル担当の1人、ヘザーが説明してくれた。例年ならシロップは500ガロン(1890リットル)ほどとれるのに、今年は115ガロン(434リットル)だったという。まさに森の恵みだな。

よく地図を見たらニューヨーク州はメープルシロップの本場・ケベックと国境を接していた。州内に1500以上もの生産者がいるのも当然か。

シロップぐい飲み、うっとり。

試食として少し温めたシロップを小さな紙容器に入れて渡してくれた。クイッ。おちょこの日本酒のように一気に飲み干す。うーん、やられた。コクがあるのにくどくない。

すっきりとして、のど越し上品…ってビールの宣伝じゃないんだから。

カップに薄く残っているのがもったいない。周りの女性たちは指でぬぐってペロペロしたり、残さず舌でなめ切ったりしていた。

かわいいな。よーし私も。ポタポタ…しまった、抱っこした赤子ケイの顔がべたべたになってしまった。

メープル・サイダー、すっきり。

炭酸水にメープルを溶かした「自家製サイダー」もいただいた。うん、悪くない。ゴクゴク、私だけ一気飲みした。

「エンジョイ!」先に帰る女性たちに次々、声をかけられた。食堂でもどこでも、「お先に失礼」じゃなくて、グッバイじゃなくて、エンジョイ!なんだな。いいな。

そう、人生肩ひじ張らず、ラフでOK、楽しもう。樹液の採取には立ち会えなかったけれど、素敵な女性たちにたくさん会えた。

またしても忘れもの…。

ケイのスプーンとよだれかけをケイコさんちに忘れてしまった。「取りにまたニューヨークに来てください」。

ケイコさんはやさしかった。メープルの宿題も残したし、本当にまた行きますよ…。うっしっし。