パリ編[5]日本文化会館「和のおやつ」デモ・親子で鮎焼き

絶品5つ星フロマージュ・ド・テット。4.91ユーロ。キッシュ・ロレーヌ。2.9ユーロ。グレープフルーツのサラダ。小エビ入り。5.54ユーロ
世界一幸せな朝食。鴨とイチジクのパイ包み。7.82ユーロ。鮎焼きの見本を用意するかっぽう着姿のアシスタント・ミキちゃん鮎焼き大会。うまく楕円に広げられるかな・・・「熱いときはホンットに熱いからね!」注意書き「見てみて」。小さい女の子が見せに来てくれた芋きんつば簡単バージョンを紹介ジンベイを来てお見送りする丁稚ケイ

注:1ユーロ≒100円

午前5時、同宿の友リサさんの一言にハッとする。

「センセイ、昨日の夕方、とんがってました」。ドキッとした。「1人にしたほうがいいと思って、それもあって夜、出かけたんです」。日本文化会館での「和のおやつデモ」を準備しながら、アルザスでのデモの段取りも考える。ギスギスしてしまっていた。

疲れているはずなのに、席を外してくれたんだ。シャワーを浴びながら猛反省する。

こうして1人でシャワーが入れるのも彼女たちのおかげ。ありえないほど助けてもらっているのに、イヤな思いをさせてしまった。言わずに立ち去ることもできたのに。

「もっといい仕事をするために、目の前のことに1つずつ集中しましょう」。忠告してくれた。ありがたい。涙が出た。

午前7時、世界一幸せな朝食。

気を取り直そう。今日はデモ第1ラウンドだ。15区の肉惣菜店「ジル・ヴェロ」で昨日、帰りに買ったパテやサラダをいただこう。

すぐ近くに留学時代に住んでいたけれど数回、行ったことがあるだけだ。「フロマージュ・ドゥ・テット(Fromage de Tête)」というパテで有名で、鮭のテリーヌやサラダなども並ぶ。

鴨とイチジクのパイ包み、170g7.82ユーロ。

リサさん母娘ともだえた。「おいしいっ」「鴨がとろけるっ」。塩加減もほどよくて、くせがなくて、ふんわりしていて。すごい。

かんきつ類のサラダ、260g5.54ユーロ。

グレープフルーツの苦味が何よりのスパイス、散らされたディルも効いている。小エビとオレンジ、あっさりしたサワークリームのようなドレッシングの組み合わせはありそうでどこにもない。

キッシュ・ロレーヌも史上最高、濃厚でチーズそのもの。1個2.9ユーロ。

卵っぽさがない。チーズがねっとり、でもチーズだけじゃない技がある。ベーコンの塩けもいい。自分史上最高のキッシュかも。この味をめざそう。

どれもハズレなし、どんな有名店もかすむおいしさだった。しかもスーパーで買うのと変わらない良心価格だ。住んでいたころ、もっと試すべきだったな。

パリに2店、ニューヨークやロンドンにも店があるという。きっと東京上陸も近そう。だってこんなにおいしいんだもの。

すっかり気を持ち直した。改めてリサさんに感謝する。世界一幸せな朝食になった。おいしすぎる。外食するのが難しいから、最高のごちそうだわ。晴れ晴れ。きょう1日、頑張ろう。

Gilles Verot 

午前11時、日本文化会館へ。

住んでいたころの足・地下鉄6番線で向かった。通用口のボタンを押す。「きょうのコンフェランシエール(講演者)です」。開けてもらい5階へ向かう。

実演は中2のアシスタント、ミキちゃんにやってもらおう。

白いかっぽう着に白いレースの三角巾がかわいいな。私が着ると完全に定食屋のオバチャンだが。フランス人に鮎焼きを披露した!なんて、いい経験になるだろう。

ホットプレートには注意書きがあった。「熱いときは本当に熱いので気をつけて!」。すごく念押ししているな。さわってヤケドした参加者がいたそうだ。スタッフは丁稚ケイも含めて総勢9人、頑張ろう。

午後2時、第1回目スタート。親子連れ25人ほどがやってきた。

鮎焼きと「きんつば」を作ってもらう。まずはアユについて説明する。フランス人はアユそのものを知らないが、子ども向けだから簡単に。これ何だと思う?「サーディン(いわし)?」わあ、反応があるのがうれしい。

でも、わいわいがやがや、あんまり聴いちゃいない…。

コンセントによってパワーが違うのか、ホットプレートのせいか、火加減が難しい。

鮎焼きの皮生地を紙カップから垂らし、10㎝大の楕円を作る。子どもの分までする親が多いんだな。日本だったら子ども優先にしそうだけれど。「うまく作らせたい、という思いが強いのでは」。会館スタッフ・カリンさんは言った。

東京にあなたのブティックはないの?きんつばはアズキで作らないの?

常連の日本通らしい女性に質問攻めにされる。あんこで作るのがふつうだけれど、フランス人は「甘い豆」が想定外だから避けたんです。そういうと「私は好きだけれどね〜」と笑っていた。

アユの表情はコーヒー液で。さすが芸術の国、上手に描いていた。

「ぎゅうひ」を挟み、割りばしの先を濃いコーヒー液に浸してアユの顔やヒレを描いてもらった。「見てみて!」緑の服に緑の髪飾りをつけた女の子が作った鮎焼きの皿を見せに来てくれた。うれしいな。

「彼女は和食が大好きで、お箸も上手に使うのよ」。お母さんが言った。どんな「和食」なんだろうな。

次は2日、「東北のおやつ」デモになる。

大人向けでレクチャー部分が半分を占める。しっかり話せるようにしなければ。空っぽに近い仏語の引き出しだけれど、それさえなかなか目当ての単語が出て来ない。もどかしい、悔しい、もっと話したい。

英語が分かってもらえなくても全然へっちゃらなのに、仏語が通じないと悲しくなるのはなぜだろう。かけた時間とおカネが違うせいか。

必殺・一夜漬けだけれど、目いっぱいのパフォーマンスをしよう。思いは通じる…といってもある程度、伝えられてこそだから。