アルザス編[5]「ジャムの妖精」の村へ

メゾン・フェルベールの外観。村の何でも屋さんメゾン・フェルベールのジャムずらりメゾン・フェルベールの器コーナー。ジャムボウル欲しい!メゾン・フェルベールでは野菜も販売中世の街コルマールコルマールのレストランで。付け合わせのおイモ。甘くておいしいいとしのジャンボノー、いただきます!まさかの大ヒット・フォレノワールコルマールのクッキー、旅の友ユーロシティー車中でホッ。洋ナシのタルト

ストラスブール発、午前8時51分、中世の街コルマールへ。

アルザス巡業の友・カヨコさんとおしゃべりしながら30分、えっもう着いた。慌てて降りる。
駅前のタクシー乗り場には1台しかなかった。

タッチの差でドイツ人らしい2人に先を越される。「子連れでも譲ってくれませんねぇ」「そうねぇ」。フランスで子連れは最優先されるのに慣れてしまった。日本に戻ったら…。

待つこと15分、タクシー2台目がやってきた。

めざすニーデルモルシュヴィル村には20分ほどで着いた。14ユーロほど。バスは1日数本しかない。この村に来るのは2回目になる。

メゾン・フェルベールは「よろずや」さん。

赤い水玉模様のジャム瓶はパリでも高級食材店や百貨店でよく見かける。引っ張りだこの有名店は人口300人余りの村の「雑貨屋」さんなのだった。

ずらり並んだジャム棚の前に、レースのような砂糖衣が美しいパンデピスが並ぶ。奥に入る。キッシュやパイといったおそうざいに野菜、週刊誌に新聞、洗剤…。

オリジナルの器やジャム瓶があしらわれた特製ふきん、パリで一緒だったリサさん母娘が喜ぶだろうな。

さすがに器は重いのであきらめ、ふきんにした。

パリの料理学校を卒業したカヨコさんが3カ月間、働いていた。

おかげで厨房に入れてもらえた。

土曜日の朝、大きな注文があって大忙しのようだった。マダム・フェルベールはイチゴのタルトを仕上げている真っ最中だった。

スタッフに指示を飛ばしながら、自ら粉砂糖をタルトにふりかけている。へーえ、こんなに有名なのに、ちゃんと自分で作っているんだ。

「ごめんなさい、こんな感じで。次は日曜日に来てね!」。

笑顔で言ってくれた。チャーミングだな。

パリで買うより1ユーロほど安い。日本価格よりは3分の1以下。ワケありならば5ユーロ。

重たいが買っちゃえ。1瓶6ユーロで、ちょっとタネが混じったりしただけの「ワケあり」なら5ユーロで買える。荷物も減った。フランス最後の日、買っておこう。

キイチゴ、チェリー、マーマレード…。迷いながら何度もレジに置いては追加する。気付いたら7瓶も買っていた。これから1人で移動なのにどうする気だ…。

Maison Ferber

マキさんの車でコルマールへ。

メゾン・フェルベールで働くナオトさん宅へお邪魔する。妻のマキさん、1歳9カ月のテオ君が迎えてくれた。

部屋からアルザスの青い空につながっているみたい。緑のブドウ畑も見える丘の上の家、夢に出てくるような住まいだな。

マキさんの運転でコルマールへ。

ランチを予約してくれていた。「クリスティーヌも好きな店」なのだとか。

アルザスらしい食堂「ウィンステュブ・ドゥ・ラ・プティット・ヴニーズ(Winstub de la Petite Venise」だった。

アイススケート靴やスキー板が飾られている。かわいい。

フランス最後の食事は、あこがれ原始人の骨付き肉。

アルザス食べおさめは何にしよう。メニューを見て即決した。

「私、ジャンボノー(豚すね肉)にします!」。ストラスブールで何回か食べた骨付き肉、最後にまた注文する。

添えられたニンジンとセロリのサラダがおいしい。生野菜は久しぶりかも。

「みなさんでどうぞ」と出されたジャガイモのピュレも、ちょっと甘くてついつい食べてしまう。15ユーロほどだった。う、動けない…。

どこか昭和が香る洋菓子店、リション。

ショーケースの奥がサロン・ド・テになっていた。

ピンクの内装に重たそうなカーテン、古めかしい造花、店員のマダムたちも年季が入っている。ツッコミどころ満載なのだった。

時が止まっているみたい。ナイトクラブのような照明も奥のコーナーは消されていて、商売っ気がない。

もうお腹いっぱい、ケーキは無理だ。「いいんですか、本当に。注文しなくて」。カヨコさんに背中を押され、ショーケースを見に行った。絶妙のタイミングでマダムに訊かれた。「何にするの?」

気おされて思わず言った。「フォ、フォレノワール…」。

まあいっか、食べおさめておこう。3.2ユーロ。

スポンジの厚さは3段それぞれ気ままだし、手作り感あふれまくりというか、何と言うか…。大丈夫か。

なかなかどうして。リキュールの利かせ方もバランスがいい。たまげた。見かけだけで判断しちゃいけないな、人もフォレノワールも。アルザスで計4つ食べたが一番かも。おそるべし、リション。

Pâtisserie Chocolaterie Richon

コルマール発午後4時27分、スイスを縦断してイタリアへ。

お世話になったカヨコさんとコルマール駅で別れる。彼女なしではアルザスに来られなかった。丁稚ケイもすっかりなついていた。ありがとう、またパリで。

まだ30分近くある。駅のトイレは「故障中」だった。

まぁいっか。使えたにしろ、おむつ台なんてないだろうし。ホームのベンチで公開おむつ替えだー。

ジャム7瓶、また荷を重くした。自業自得。セイロと鍋、ボウル…荷物は30キロ以上、あるだろうか。

大丈夫、大丈夫。パリ〜ストラスブールを「がんづき」を背負って来たことを思えば、軽い軽い。言い聞かせる。

午後4時53分、ミュールーズでバーゼル行きに乗り換え。

乗り換え時間は13分ある。ホームが遠かったらどうしよう。

思っていたら本当に離れていた。エスカレーターで駆け上がって6番ホームをめざす。あら、下りエスカレーターがない。

すぐに「助けましょうか?」と学生のような男性が声をかけてくれた。

自分も大きなキャリーケースがあるのに荷物を持ち上げてくれた。た、助かったー、間に合ったー。何度もメルシーを言った。

スイスに入る。車内アナウンスが独仏伊英の4カ国語に。

バーゼル午後5時31分、ミラノ行き特急ユーロシティーに乗り換える。持ち時間は5分だが向かいのホームで助かった。

1等車を予約していたのにチケットに席の指定がなくてちょっと心配だったけれど、スイス国鉄は自由席がほとんどらしい。

イタリア・ドモドッソラ駅に午後8時12分、無事に着いた。

3時間半の鉄路、丁稚ケイはぐずってあやして…の繰り返しになった。フーッ。少し泣き止んだころ、「メゾン・フェルベール」の洋ナシのタルトをほおばった。2.75ユーロ。果物の甘さをいかしたあっさり味だな。

あやしながらコルマールの焼き菓子店「Coco-LM」で買ったココナッツ菓子たちにも手をのばす。

カヨコさんが好きだと聞いて、量り売りのを一緒に買ったのだった。確かにしっとりねっちり、食べごたえがあった。アルプスの山々を眺めながらひとつ、ふたーつ、みっつ…。

Coco-LM 

ドモドッソラ駅ホームで叫ぶ声がした。「チカコサーン!」あ、トモコさんだ。笑顔で迎えられた。ああ来てよかった。バーゼルで乗り遅れたら、もう行くのをやめてバーゼルに泊まろう…と弱気虫だったのに。わーい、イタリアだー。大喜びで抱きついた。