イタリア編[1]スイス国境の村で「半芸半農」ライフをのぞく

テラスでイタリア式朝食を居候しているトモコさんカップル宅村のお祭り、ローストポークなどを仕込み中2人が手がけるアートハウスニンジンの葉っぱ入りオムレツ眺めは最高!空中テラスでランチパンフォルテ、どこか「ゆべし」のよう白鳥シュー発見!思わず2羽連れて帰るジェラテリアでジェラート、1.5ユーロイタリアらしい焼き菓子たち

ドモドッソラ。音符みたい。

歌っているような地名がイタリアらしいな、楽しげだな。私を迎えてくれた画家トモコさんによると「イタリア人がスペルアウトする際<DはドモドッソラのD>というふうに使う」そうだ。

トモコさんは「半バーゼル、半ドモ」暮らしが1年になる。

「くまとさん」と呼ぶパートナーのスイス人画家と、イタリアに移った。築400年を超す石造りの家に手を入れ、ゆくゆくはアーティストの集う場にしたい。

「くまとさん」は収穫の鬼だった。

どこからかチェリーやクルミ、ヘーゼルナッツ、山菜、キノコを抱えて帰ってくるのだとか。畑仕事もお手のもの。トモコさんは加工係で、コンポートやジャム、ジュースを作って「農家のヨメ」と化している。

「半芸半農」暮らしをおすそわけしてもらいに押しかけた。

現在の住まいも築400年の石の家。

雨の夜に着いた。エレベーターなしで乗り換え2回、大荷物と赤子連れでトイレにも行けず、陸路3時間半をまさに「乗り切った」。

あちこちで「魔法の手」に助けられた。トリに登場したトモコさんが女神に思える。パリ〜東京の空の旅12時間なんて楽勝だわ。

午前7時、青空だ。ああ、うれしい。

テラスに朝食を運んでくれた。私に食べさせようと貝殻みたいなパリパリのナポリ菓子「スフォリアテッラ」やお菓子を買ってきてくれていた。リコッタチーズは丁稚ケイが気に入り、あっというまに食べてしまった。

トモコさんが淹れてくれたコーヒーがとりわけ、心にしみた。

ビルネンブロートを作ってみようかな。

トモコさんがボウルに粉、砂糖、バターをあわせていた。何だろう。

スイスの洋ナシ入りパン「ビルネンブロート」だった。洋ナシのペーストにイチジクやナッツを加え、パン生地も混ぜて「あん」にしたものをさらにパン生地で包んで焼く。「もなかみたい。私はあまり好きじゃないけれど、くまとさんが好きで」。トモコさんは言った。

トモコ流は、くまとさんが作った干し洋ナシや干しカキを混ぜてペーストにする。パン生地は加えず、発酵させない生地で包んで焼くのだそうだ。へえ、おいしそう。

築400年の石の家へ。村のお祭りに出くわした。

改築中の家に向かう。車で村のお祭りに出くわした。「イタリアはいつでもどこでも、お祭りだらけ」。くまとさんが笑った。料理を仕込んでいる家にお邪魔した。

ミラノ風リゾットやサラダ、羊や豚のロースト200人分が準備されている。楽しそう、おいしそう。

「あ、バンビーノ!(赤ちゃん)」。あちこちで丁稚ケイに声をかけてくれた。

石の家は4軒続き、部屋数は30近く。その昔、80人ほどが住んでいた。

ひえー、でかい。要塞みたい。崩れ落ちて空が見えているところもある。

住まれている部屋もあったが、ほとんどのスペースは100年以上、打ち捨てられていたという。畑ではイチゴ、ズッキーニ、シソ、ネギ…「何でも」育てている。転げないよう気をつけながら石の階段を昇る。

最近まで暖炉でご飯を炊いていたそうだがプロパンガスを導入、下水道も自ら工事して「文明化した」。

ニンジンの葉っぱを刻んで混ぜたオムレツを作ってくれた。

ランチは3階の広いテラスに運んでいただく。深い緑の渓谷に包まれ、別の丘の教会の塔が見える。空中に浮いているみたい。標高460メートルというからそれほど高いわけではないけれど、別世界だな。

バーゼル近郊に住む「くまとさん」のお母さんはお菓子作りが得意で、81歳のいまも焼いているのだそうだ。「スイス人であんなにきれいにケーキを作る人に初めて会った」。トモコさんは熱く語るのだった。

「シンプルだけれど手のこんだケーキだよ」。くまとさんも言った。へーえ、おやつ、習いたかったな。また次回。言い合えるのがうれしいな。

部屋のいくつかを案内してくれた。村のディスコとして使われていた場所、豚の加工所だった部屋…。

ずっとここで暮らします。トモコさんはすがすがしかった。

ヘーゼルナッツとクルミを割りながら話してくれた。来春には住み始めたい。何か教えるというより、オープンな家、芸術と癒しの場、幸せをシェアできる場にしたい。残りの人生をそのために捧げたい。

もうすでにバーゼルの美術学校で教える「くまとさん」の生徒さんが来て絵を描いたり、ワークショップを開いたりしているという。

イタリア的スローペースに惑わされるが、2人だからこそ、できる。2人でつくりあげていくんだな。

近くの菓子店で、白鳥シューがいた。

帰りに菓子店「A FORNO OSSOLANO」に寄ってもらった。あ、白鳥シュー!1人で騒ぐ。トモコさんも初めて見たという。いまや日本でもほとんど見かけないのに、こんなところで出会うなんて。

うれしくて2羽、連れて帰った。カスタードではなく、ミルククリームのみ。素朴でなつかしい。

ジェラテリア「La Golosa」でジェラートを。1.5ユーロ。

冬はスキーの先生をしているオーナーがたっぷり、盛ってくれた。安いなぁ。ミルク味=フィオーレ・ディ・ラッテ(fiore di latte)とイチゴにする。最盛期には38種類あるそうだけれど、いまは半分ほど。

たくさんあったって頼めるのは2,3種類、悩まなくていいわ。

「ジェラート屋さん、っていい仕事ですよね、みんなを笑顔にする」。トモコさんがヘーゼルナッツ味をほおばりながら言った。本当に。私も笑顔を広げられる仕事、もっともっとしたいなあ。