インドの命綱・週末バンコクへ(下)

羽が生えたみたい。

自分で動ける。選択肢がある。

なんてすばらしいんだろう。街歩きを味わい尽くそう。

ナンプラーとパクチー、トウガラシが入りまじった香りがする風が吹く。

屋台の焼き鳥のにおい、果物売り…。ごちゃごちゃした雑踏がいとおしい。

アジ寿司に感涙。

バンコクの達人スギサマのお勧め「鮨忠トンロー別館」へ向かった。

海外の寿司なんて…。と思っていたが、しみじみおいしい。アジ寿司なんて逆立ちしたってインドで味わえない。かみしめた。

アジア最大級・IKEAへ。

バンナー地区にある巨大モール内にあった。タクシーで300バーツ(900円)ほど。

あぁ、パリを思い出す。じゅうたんにテーブル、バスタオル…何もかも買って、自力で持ち帰ったな、暮らし始めたころ。

インド暮らし1カ月、部屋のディスプレイごと持って帰りたい。無理か…。

あと1週間で2歳になる丁稚ケイのミニカーやお皿、給水ポットなどを買う。青いバッグに山盛り買っても3000バーツ(6000円)だった。

遠出といえばIKEAぐらいだった。近場ですべて事足りる。

街角の小さな美容室へ。

ショッピングモールにある美容室を予約したが結構、値が張る。

ホテルのある通りにマッサージ兼用の美容室があった。「スマイル美容室」という名前にひかれ、ひょいと入ってみた。にっこりやさしい笑顔で迎えられる。

カット500バーツ(1500円)という。切っちゃえ。

ヘアカタログを見せられたがどれも…。意外にない。ボブというか、おかっぱでいいのだけれど。

ipad で画像を検索して「こんなふうに」と言う。

チョキチョキ切ってもらった。マッサージ店も兼ねているから、首もゴリゴリ押してくれて気持ちいい。

ポニーテールの美容師さんが「ルックス・ヤーング(若く見えるわよ)」と20回以上、ささやいてくれた。そ、そんなに老けて見えていたか。

ちょっと複雑な四十路ゴコロ…。ま、いっか。パッツリ切ってもらえた。

気分は「ローマの休日」だわ。

うきうきとホテルに戻る。顔を見るなり相方ユウさんが言った。

「わわ、どこのオバサンかと思ったー」。ケンカ売っているな…フンッ。

アン王女のようにスクーター…は無理だがBTS(スカイトレイン)に乗ってどこへでも行こう。しかも子連れだが。

インド駐在の生命線・伊勢丹へ。

日本以上に日本らしいクリームパンをいただいてから食品売り場へ突進した。

一夜干しのサンマ1尾55バーツ(160円)、納豆3パック80バーツ(240円)…。あっというまに買い物カートがいっぱいになる。

レジで配送の手続きをする。私たち以上に買い出ししている夫婦がいた。

きっとタイ周辺国からの買い出し組だろう。

どちらからですか。声をかけた。「バングラデシュからです」。在住24年という。

デリーからだというと「あそこは都会の割に何もないところですよね」。

妙な連帯感、うれしくなる。お互い頑張ろう。名刺を交わして別れた。

キッザニアへ。

伊勢丹のすぐ近くにある商業施設「サイアムパラゴン」に3月、オープンしたばかりという。フリーペーパーで見つけた。

ケイにはまだ早いかもしれないが、彼なりに楽しむはず。まだ2歳になる前で無料で入れるし。

午後1時を過ぎていたので割引があり、大人300バーツ(900円)で入れた。

日本でも甥っ子たちを連れて3年前、甲子園のキッザニアに行ったっけ。

2カ月前に予約しても夜間入場しか空いておらず、アトラクションはどこも30分待ち以上だった。

救急車や消防車が人気のようだったが、どこも待たずに乗れている。

ケイは車に乗ったり、走り回ったりしていた。乳幼児コーナーも貸切でひやかす。スタッフがあやしてくれて助かるな。

親のためのラウンジがあり、マッサージしてもらえる。いいな。さすがタイ。

汗だくになって抱っこしてホテルへ戻る。

いつもBTSは混んでいるけれど、ケイと2人連れだと必ず席を譲ってもらえる。

インドに帰るのも楽しみになってきた。

たとえトホホが続いたって楽園バンコクが待っていると思えば乗り切るわ。

つかのまの自由を味わった。さ、宮殿に戻らなくちゃ。勘違いが続いているか…。

もちろん王女の足元にも及ばないが、私にもミッションがある。8月下旬、また来よう。