デリーの台所・INAマーケットへ

1ルピー≒2円。

やる気のある野菜求む。

暮らすグルガオンを何軒、ハシゴしても「買う気のする野菜」になかなか、出会えない。くったりしていて、先っちょがしなびていて。

「わて、もう暑くてやる気しませんねん」とでも言いたげな。

アトリエ記念パーティーでそうこぼした。はちきんマダムのサヨさんはじれったそうだった。

「INAマーケットなら一発ですみますよ。案内します」。ハハー、お願いします。弟子入りしよう。

INAはデリーの台所。

食材なら何でもそろう市場だった。3年前にも来た。

クイック旅行者としては何もかも珍しく、ターリー皿や自転車にひっかけるステンレスの弁当箱を買った。あれ、どこへ行ったんだろう。

「いまの季節、ハエが口に入ってきますよ」。そう聞いてひるんでいたが、もう大丈夫だろう。

車で30分、デリーにあるINAマーケットへ向かった。迷路みたいになっている。

「あのね、この揚げパン屋さんの先を入ると覚えておいて」。はーい、師匠。

乾物屋さんに寄り道。

カレーパウダー、ジンジャーパウダーに手を伸ばす。100gで30ルピーなんだもの。ヴァニラビーンズも10本入りが250ルピーだった。日本の半額以下だな。

いやいや、何しに来たんじゃ。アイ・ニード・ナマモノ、なのだから。

めざすは八百屋さんだった。あ、ここ、来たことがある。

駐在の長いテルさんに3年前、連れて来てもらった。よくこんなハエブンブンな店で買うなあ。当時はこっそり思っていたが…。

「ネギ、ネギ」「ニラ、ニラ」。

売り子たちが日本語で叫んでいる。向かいにも八百屋はあるが、「アフジャ青果店」が日本人御用達なのだとか。白菜にたかるハエは気にならないこともないが…。

インドでは見たこともないシャッキリ野菜たちに目がくらむ。

「回転がいいから」。サヨさんが言った。確かに続々、コンテナに積まれた品がやってくる。

みずみずしいレタスにエリンギ、パプリカ、ブロッコリー…。あ、レンコンもある。大声を出す。

ホウレンソウはややくったりしていたが、やる気のある顔が並んでいた。

めくるめく野菜ビュフェ。

ええと値段…書いていない。時価か。訊くのは面倒だ。

ええい、右から左まで全部いただくわー。

欲しい分だけ手にする。わきからスーッとカゴが差し出される。どんどんポンポン、渡していけばいいのか。

「このキュウリはおいしいですよ」「ゴーヤもイケます」「これは豆ごはんにいいよ」。サヨさんのアドバイスを受けながら、狭い店をぐるぐるする。

トウモロコシ2本、サトイモ5個、レタス1玉、キュウリ3本、ネギ、ブロッコリー、イタリアンパセリにバジル1袋、ナス3本、ニンジン3本、ジャガイモ1キロ、絹さやにスナップエンドウ、マンゴー2個、大根、エリンギにマッシュルーム…。

何度も「もうおしまい」と言いつつ、追加して買ってしまった。キリがない。ハァ、ハァ。

カゴに入れた野菜はポロシャツ姿のスタッフがどんどん量り、値段を読み上げる。

ヒゲ面のハンサムな計算係がメモ用紙に書きとめていく。

すごい、人間レジ。

メモをのぞく。野菜の名前はヒンディー語に英語がところどころ交じっている。ちょっと振り返ったすきに、暗算が終わっていた。

ものの5秒ほどだった。え、えー。大声を上げる。はやーっ。どうなってるの、頭の中。

本当にあってるんかいな。エクセルより速い。

帰って計算した。もちろん電卓で。彼の10倍、時間をかけて。

20種類の野菜の合計が、638ルピー。ひー。ばっちりご名答だった。さすがインド、おそるべし。

帰ったら野菜洗い大会。

水道水で洗ってから浄水で流す。

レタスはミネラルウォーターに放ち、1玉まるごとトスサラダにした。

久しぶりだなあ、生野菜。幸せ。あっというまになくなった。

ニラは餃子に、レンコンはきんぴらに、キュウリとナスは浅漬けに。ああ、これで生きていける。一気になくなりそう。これじゃ1週間、持たないな。

サヨさんに翌日、言われた。彼女はいつも1週間分を1回で買い出し、合計1000ルピー以上にはなるという。

「600ルピーしか買ってなくって、少ないなと思ったのよ〜」。ものすごい大人買いをしたようで全然、足りていなかった。まだまだ買い物上手への道は遠い…。