パリ、チョコレートの旅<8>完

9日目6:10、ラスト・ラン。

エッフェル塔、アンヴァリッドを回る定番コースを走り納めした。インドに戻れば、ひとりで外は走れない。

9泊で走ったのは7回、「やらないと落ち着かない」歯磨きみたいな習慣になった。うれしい。

7:00、荒ぶるクロワッサン。最愛「ピシャール」で。

走り終わると同時に滑り込んだ。0.95ユーロ。まだあたたかい。やった。

焼きたてを、一刻も早く食べてもらいたい。猛然とダッシュでホテルに戻る。

リサさん母娘を急かした。だって、焼きたてのバリバリしたおいしさを知ってしまったら、どんなクロワッサンだって物足りない。リサさんが名付けた。「荒ぶるクロワッサン」、この旅ナンバー1だった。

パテやおそうざいがおいしい「ジル・ヴェロ」、菓子店「ピエール・エルメ」、チーズ店「ローラン・デュボワ」を歩いてハシゴする。住んでいたころのご近所さんだが、どこも「たまのぜいたく」だった。

12:00、ラスト・ビストロは「ラ・カンティーヌ・デュ・トロケ」。

私が住んでいたアパートの近くにあるバスク料理店の2号店だった。大人気であっというまに席が埋まる。

ハムやサラミの盛り合わせとサラダ、野菜のミルフィーユ仕立てを頼んだら「多すぎるわよ」と言われ、サラダをやめた。でも来たプレートを見たら…3人で合唱した。

「全然、行けるよね」「軽い軽い」。すっかりパリ仕様の胃袋になった。

「こういうのこそ、日本では食べられませんよね」。リサさんと言い合った。

メーンはどうしよう。インドでは食べられない牛にしようか…。

ちょっと悩んで「乳のみ仔羊」にした。ナヴァラン風の煮込みがおいしい。

やわらかくって熱々で、口が「ホ」の字になったまま、喜んでいる。20ユーロ。

最後のチョコ買い出し。

ラ・メゾン・デュ・ショコラに寄る。チョコのシャーベットと塩キャラメルのアイスにした。4.9ユーロ。

10日目7:00、空港へ。

セーヌ川にある「自由の女神」の後ろ姿を毎日、眺めた部屋を出る。

夕方のフライトに乗るリサさん母娘に見送られた。タクシーを待つ間、リサさんが言った。

「このあたり、昨夜からキュンキュンってなってしまって」。

リサさんが胸の下をおさえる。前回は私が見送る側だった。何とも切なかったのを思い出す。

リサさん母娘と初めて一緒に旅したのは3年前、ケイがお腹にいたころだった。

今回で4回目になる。小6だったミキちゃんは3回目、パリでの「和のおやつデモ」でアシスタントを務めてくれた。

今回は中3になり、はっきり夢を語った。「パリのル・コルドン・ブルーに行きたい」。感慨深い。

タクシーの中で手を重ねる。「また来るぞー」「ガンボロー」。文句も言わず私の行きたいところについていってくれる。

食べっぷりも買いっぷりもよくて大好きな旅の友であり、名アシスタントであり、彼女たちなしではパリに来られない。心から感謝しよう。

8:30、シャルルドゴール空港着。タクシーで63ユーロ。

エールフランスのカウンターが無情だった。

「このスーツケースは3キロオーバー」「手荷物が5キロオーバー」…うわー、厳密なジャッジをとられる。

ビジネスクラスだから多少は大丈夫だろう、というヨミは甘かった。

超過料金200ユーロ、なり。

トホホ…。いえ、あっはっは、だわ。セ・パ・グラーヴ(たいしたことじゃない)。

取り戻すべく、本づくりの力にしよう。増刷して取り戻そう。

2Eターミナルでエクレアを。

ラ・メゾン・デュ・ショコラのが食べたかったが、エクレアはなかった。

「MIYOU」でピスタチオのエクレアを見つけた。5.85ユーロ。パリよ、さようなら。

10:50、AF226便、デリー行き。

デリーまで8時間のはずが、1時間ほど遅れた。

それでも9時間、日本に比べたら本当に近い。

おまけにビジネスクラスなんてもう乗れないかも。

パリのホテル・リッツにある二つ星レストランのシェフ、ミシェル・ロス監修のコースを楽しもう。

つきだしはサーモンの入ったミニベーグル、前菜はフォアグラ、メーンは仔鴨ちゃんだった。

デザートは「トリオ」。

メニューには「キイチゴののったサブレ、レモンのヴェリーヌ(ムース)、ブラウニー」とあった。

ブラウニーはスポンジ生地にチョコのガナッシュをのせたケーキ仕立てだった。

アラン・デュカスの料理教室で習ったのと似ているな。パリの「ブラウニー」は、アメリカのそれとは全然、違うんだな。

1:30、デリー着。

空港に降りるとホッとする…ということもなかった。でも世界中どこだって、2歳になる丁稚ケイと相方ユウさんがいる場所が母港だわ。

パリの旅が終われば、メグミさんとの「おうちでつくるパリのチョコレシピ」本づくりの旅がテークオフする。

「ある意味、新境地に挑んでいただくことになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」。

ちょっとドキドキする。メグミさんは続けた。

「アイスクリームメーカーは買わなかったんですね!?では増刷印税で買いましょう!」

ふふふ、よーし。魂を込めて、いい本にしよう。