ゆくよインド走友会

外を走りたい。

アトリエ「おやつ新報」開設パーティーでも話した。ナマモノに続いてインド暮らしに欠けるもの…「運動不足」だった。

デリーはまだしもグルガオンは車の移動ばかりになる。体が縮みそう。東京では1日10キロ以上、歩いていたのが一転、飛べない鳥になったみたい。

ジムのルームランナーで週末、ちょこちょこ走るようになった。でも外を走りたい。デリーまで行かないと無理だろうか。

在印6年になるコージローさんが言った。昨年の東京マラソンに10万円を払って出場した若き経営者はタフだった。

「いや、ありますよ。ひとりじゃちょっと難しいけれど…」。へえ、本当に。1周すると4キロほどで、悪くないという。わーい、市民ランナーの聖地・1周5キロの皇居みたい。

よし、我らが聖地を走ろう。

洗濯物がつるされた小屋が並び、野良ブタが草を食んでいるが…。

「土曜6:30、ダイヤパークプレミアホテル集合で」。4人の勇者が集まった。

コージローさんはばっちり決めてきた。高速パンツに給水ギアを背負い、腕にはGPS搭載のランナーズウォッチ…。

ひー、かっこよすぎ。東京から抜け出たみたい。「これじゃあ30キロ走る格好ですよねぇ」。

「気を付け」をしてちょっと照れた。

対極だったのが元走り幅跳び選手のマイさんだった。コンバースのスニーカーで、水も持って来ていない。「最近ちっとも走っていなくて」。いえいえ、格好は二の次、楽しもう。

実年齢より10歳は若く見える年齢詐称系ランナー・シンゴさんは30代のころ年に3回、フルマラソンに出ていたという。ひー、やさしい顔して猛者だったか。

かくいう私は3年前、2回フルマラソンを走った。パリマラソンは4時間18分、でも一発屋に終わった。ラン歴詐称系なのだった。

まずはストレッチをしよう。いちにさんしー。マイさんの音頭で足をのばす。ご、ろく、ひち、はーち。

7:00、出発。伴走車つき。

ipadを見ると32℃だった。日中はまだ40℃を超すこともあるから涼しく感じる。

「じゃ、走りながらチーム名を考えましょう」。シンゴさんが言った。

荷物や水を車に乗せた。何と伴走してくれるという。日本じゃありえぬゴージャスさだわ。

広々とした車道を走る。車もまばらだし、歩道なんてないし。わーい、大会みたい。

「なかなかいいですよねぇ」「野良ブタが水を飲むほどの絶好の環境」「グル豚会、はどうかな」「走る会というよりバーベキューですよそれじゃ」。

ワイワイ言い合う。

直線道路を折れたら、早朝クリケット。

野原にしか見えないが一応、運動公園らしかった。どこでもクリケットをしていた。

「ここでメタリカのコンサート、あるはずだったんですよ」。

ええ、伝説のヘビメタ・バンドが来たんだ。シンゴさんもチケットを買っていたという。「来るには来たんですが…」。コンサートは直前に中止になったという。はは、インドらしい。

食あたりでメンバーが倒れたとか?

「公演許可を取っておらず、おじゃんに。怒ったファンがステージで暴れてすごかった」のだそうだ。ひー、ここで。

レジャーバレー公園に突入。

噴水のある公園に入る。1周で1.5キロほどという。ここならブタもいなさそうだし、1人でも走れるかも。怖い顔をして走っているインド人や遊具で遊ぶ子連れもいた。

もう6キロほど走っただろうか。あれ、マイさんの姿がない。どうやら「伴走車兼救護車兼補給カー」に回収されたようだった。

最後は公道を激走する。いくぞーっ。

サモサや揚げ物の屋台…「路肩焼き」と勝手に呼んでいる食べ物屋台のわきを駆けた。

スタートしたホテルが見えてきた。ウェスティンホテル、韓国料理屋、有名なインド料理店…どこもこんなに近かったんだ。走るってやっぱり発見だらけだな。

仕上げにストレッチをしよう。マイさんも車から降りて合流した。「ノッテクダサイ」「スワッテクダサイ」と運転手さんにささやかれて、うっかり乗ってしまったという。ふふふ、それもアリだわ。

「秘密の公園があるんですよ」。コージローさんに続く。入り口が分からずレンガを乗り越える。

ここならブタがいないはず・・・が、いた、やっぱり。まあいっか。

9:00、朝マクドならぬ、朝「くふ楽」へ。

コージローさんが手がける串焼き店で懇親会をしよう。いただきまーす。ひじきとゴボウのサラダがまたしみるおいしさだった。

会名は多数決で。

いくつか候補を書き出す。楽走会、天竺ランナーズ…だし巻き卵が来るころ、決めることにした。

「紙に書いて投票しましょう」。若旦はん・コージローさんが紙を回す。お、民主的だなあ。

コージローさんは慎み深く、紙を伏せて差し出した。私は思いっきり表に書いて見せた。「インド走友会」。シンプル・イズ・ベストだわ。

「いいんじゃない?」シンゴさんは余裕でビールジョッキを傾ける。若旦那は何て書いたんだろう。コージローさんのをひっくり返す。やっぱり「インド走友会」だった。

「多数決だから、決まっちゃいましたね」。マイさんが書かずじまいになってしまった。どこが民主的…。

めざせデリーマラソン(ハーフ)。

あわよくば1月のムンバイマラソン(フル)も出たい。イスタンブール・マラソンにもときめくなあ。夢は広がる。まずは毎週土曜6:30、走るのを日課にしよう。えいえいおーっ。