ニューヨークの粉もんといえば…ベーグルでしょう。
渡米する直前、台湾と北京を旅した。「粉もん名人」に会うためだった。ニューヨークでも「粉もん」を習えたら。在住の友ノリコさんに頼んだ。探してくれたのに日程があわず無理だった。
残念、でもまた来た時に。ニューヨークの粉もんと言えばベーグルでしょう。おいしい店を教えてもらおう。
彼女は昼休みに会いに来てくれた。ダンスにマラソン、空手までこなす体育会系は力説した。
「ベーグル?どこでも同じ?いや全然、同じじゃないですよ!」。
失礼しました。「もう全然、日本のとは違います。大きさも、クリームチーズの厚みも」。熱く語るのだった。
エッサ・ベーグルへ。
3番街にある「エッサ・ベーグル」は小さな間口だけれど、中はカフェスペースもあって意外に広い。1976年創業という。木の扉を押して中に入る。
右手のガラスケースにサラダやディップ、デザートが並んでいる。あ、ココ、15年前のNY旅行でも来た。すっかり忘れていた。
マンハッタンOLのごひいきは…。
ノリコさん、先にどうぞ。いつものように頼んでください。
「久しぶりだなぁ、エッサ」。5番街近くに勤める彼女は「ランチ難民」なのだとか。へえ、意外。
カレーライスを作って月曜、会社に持ち来み、一週間食べ続けたりするらしい。花のマンハッタンでマサラ漬け…これもニューヨーク。
じゃあ塩味と甘いの、両方とも。
ショーケース越しに注文する。「超定番で行きましょう。エブリシングにロックス(Lox=スモークサーモン)クリームチーズで」。
ゴマやポピーシード、タマネギ、ニンニクなどトッピングを全部のせたベーグルに、ピンク色のディップをはさんでもらう。3.95ドルだった。
ベーグルたる者、かくあるべき。
でもサーモンの切り身にクリームチーズ、が定番のような。
彼女は首を振った。「それだと8ドルぐらいするんですよ。それじゃあベーグルじゃない」。ベーグルたる者、気軽でなくちゃ。なるほどね。
くるみディップ、ドンピシャリ。
甘い系はレーズンとシナモンのベーグルに、くるみとレーズンのクリームチーズを挟んでもらっていた。
さあいただこう。窓際のテーブルに陣取る。ベーグルにかぶりつく。皮はパリッ、中はムッチリ。「ふわふわ」でも「もちもち」でもない。ほどよい歯ごたえがある。落ちたベーグルのかけらも拾っていただいた。
ノリコさんが選んだくるみディップもドンピシャリ、私のツボだった。
ナッツの香りにレーズンの甘みがなじんでいる。さらに「どうだ」と言わんばかりにたっぷり塗られている。
自称「盛り評論家」の私もへへー、とひれ伏す気持ちよさだわ。クラッカーやトースト、スコーンにもあいそう。
お土産にダース買い。
居候先のケーコさんも365日、ベーグルを食べるという。お土産にしよう。帰り際にダース買いした。1個おまけしてくれて、13個で12ドルだった。
えっちらおっちら席へ帰る。体重9キロの赤子に加え、ベーグル3キロ分。地下鉄とバスを乗り継いで居候先まで1時間ほどかかるというのに、大丈夫か私。後先考えずに買ってしまった。いつものことだが。
ひゃー、紙袋がずっしり。そして熱い。も、もしや。
あ、焼きたてがある。
熱いの、どの子だ。せっかくだからすぐ食べよう。「お土産じゃなかったんですか」。ノリコさんはためらった。いいの、いいの。だってアツアツなんだもの。ちょっとでも減らそう。
紙袋の底から引っ張り出したのは、ゴマとプレーンだった。ノリコさんといただいた。むちーっ。はち切れそう。日本へ帰ってからを心配する。もう似て非なる輪っかじゃ満足できない。
ベーグルが呼んだ路上での再会。
お店を出て3番街を歩く。「あら、ノリコさん」。通りすがりの日本女性が呼びかけられた。
「え?チカちゃんっ」。わ、私?いや違った。焼き鳥屋で働いていたころの同僚チカちゃんという。6年ぶりの再会らしい。
へーえ。さらにチカちゃんの行き先も「エッサ」だった。
「きっとチカコさんがめぐり合わせてくれたんです」。ノリコさんが言った。いえいえ。ベーグルのおかげかも。
袋に焼きたてが入っていなかったら、私たちはすぐ店を出ていたはずだから。
☆くるみディップ〜作りやすい量〜
くるみ20g、クリームチーズ30g、メープルシュガー小さじ1、レーズン大さじ1(10g)
1.クルミは160℃に温めたオーブンか中火のフライパンで5〜10分ほどからいりする。
2.クリームチーズとからいりしたクルミ、メープルシュガーをフードプロセッサーかすり鉢で混ぜる。粒を残しても。
3.レーズンを混ぜる。
<メモ>メープルシュガーのやさしい甘さが、ナッツとクリームチーズの塩けとなじみます。
なければメープルシロップやハチミツ小さじ1〜2でも。