「懐かしい顔を思い出していたら、シアトルに行きたくなって」。
大阪のライター・ハルミさんは私と同じころ、ほぼ4泊でやってきた。
4年暮らした第2の故郷の「思い出おやつ」ってありますか。ハルミさんは東日本大震災の被災地で取材中だった。でも丁寧に答えてくれた。
下宿先の息子ケンとリンダ夫妻のジャーマン・チョコレート・ケーキ、親類のケイコおばちゃんが作ってくれたアップルパイやレモンクリームパイ…。
「ケイコおばちゃん」は70代、体調が心配とのことだった。孫のオリビアがおやつレッスンを引き受けてくれた。
彼女は「何でも作れる」人だった。
いやあ、頼もしい。日本の人なら謙そんするところだが、さすが。
アメリカらしいお菓子、作ってもらおう。子連れオーカミの友アミさんたちと押しかけた。
25歳の彼女はレストランチェーンで働いている。裁縫も得意でアクセサリーを作ってネット販売している。衣食両道、うらやましい。
アイランド式キッチンで、レッスンはじまりはじまり。
大きなオーブンには丁稚ケイの1人や2人、入れそう。天板に三角形のスコーンが並んでいた。色白ぞろい、おいしそう。
手をかざす。ほの温かい。
チャーンス。家庭の焼きたてはすべての名店に勝る。勧められる前から手を出した。ふんわりしっとり、サックサク。
へーえ。一緒に訪ねた子連れアミさんと顔を合わせた。「わ、おいしい」「ほわっほわだー」。ぎりぎり火が通ったぐらい、ミディアムレアな仕上がりだった。上手だな。
オリーブパンも止められず…。
居候先エツヤさんは手土産の袋を抱えていた。ファーマーズ・マーケットで買った大きなオリーブ入りパンだった。
塩けが効いていて、じゅわっとじんわり。滋味深いかみごたえがたまらない。
「これ、止められませんねぇ」。言い合いながら手が伸びる。
「ほんわりコナモン」をご飯に、「じんわりコナモン」をおかずにつまむっていったい…。何しに来たんじゃワレー。
「どアメリカ」を教わろう。「レッド・ベルベット・ケーキ」を。
店で真っ赤なスポンジを見かけるたび、目がくぎづけになってしまう。
オリビアはスタンド式ミキサーにバターを入れた。てきぱきと砂糖、卵、バターミルクを混ぜる。少量のココア、ベーキングソーダに酢も入れる。色を出すためなのだとか。おしまいに小瓶の食紅を振り入れた。
すごい。色粉どっさり、まるまる1本。
ミキサーの羽根を回す。びゅーん、みるみる真っ赤に染まる。丸型2つに入れてオーブンへ。焼いている間にクリームを作る。クリームチーズにバター、砂糖を混ぜる。
さあ召し上がれ。オリビアの姪っ子たちが我先にとほおばった。もちろん私も。フォークを立てた。うん、バターケーキ風かな。
もう1つ、ピーナッツバター・ブラウニーを。
溶かしたチョコレートにバター、砂糖、卵、小麦粉、ピーナッツバターを混ぜて焼き、チョコレート衣を塗る。
仕上げにどこのスーパーでも売っているピーナッツバター入りチョコを飾った。うわー、コテコテ3連弾だな。ちょっと駄菓子みたいで面白い。
つくりながら おしゃべりしながら、まだホージホジ。
気付けばスコーンに戻るのだった。人差し指でほじほじ崩してはひとかけら、ふたかけら。「忘れられない味になりそう」。オリビアの母ビッキーは言った。
「娘のお菓子、初めて食べるわ」。
えー、そうなんだ。いつも友人に贈るそうだ。ニコニコしながら、でもちょっと心配そうに手さばきを見ていた。
大丈夫、おばあちゃんの「おやつ魂」、彼女がしっかり受け継いでいる。
☆クリーム・スコーン(5センチ角8個分)
薄力粉150g、砂糖30g、ベーキングパウダー小さじ2(8g)、塩ひとつまみ、生クリーム120g、バター60g
<トッピング>メープルシュガー大さじ1
1.生クリームとバター以外の材料をボウルにふるい入れる。
2.バターをのせてカードで切り混ぜる。大粒、小粒が混じった砂状になれば手の出番。指先でバターの粒をつぶすようにすり混ぜる。全体にバターが行きわたればOK。
3.生クリームを回し入れる。カードでたたむようにしてひとまとめにする。べたつくが大丈夫。
4.長さ16㎝×8㎝、厚さ3㎝ぐらいに形を整える。カードで8等分する。4㎝角ぐらい。
5.オーブンシートを敷いた天板に並べる。メープルシュガーをふる。
6.240℃にオーブンを温め、210℃で6〜7分焼く。中がほんのり黄色っぽいぐらいでOK。焼き過ぎは台無しです。
<メモ>スコーンは焼きが命、オーブンに入れたら5、6分、くれぐれも色白仕上げで。
おしゃれなオリビア流の三角形はカドっこが焦げやすい。四角で焼いた「どっこいしょスコーン」で楽しんで。
顆粒状のメープルシュガーがいい仕事ぶり。カリカリした食感が加わります。なければグラニュー糖でも。