サンフランシスコのレストラン「スクール(Skool)」へ。
午前7時、店を営むヒロコさんが迎えに来てくれた。レンガ造りの倉庫やIT企業の本社を通り過ぎる。シックな家具やオブジェが並ぶショールーム街に店はあった。
「Skool(スクール)」はSchoolのスラングで、魚の群れの意味も。
「みんなで成長していこうって思いを込めたんです」。メニューはルーズリーフに印刷され、黒板メニューも学校風にしゃれている。
バーカウンターが正面にあり、テーブルもかっこいい。品のない親子が乱入、すみません。
「いや、うち、ファミレスですよ」。ヒロコさんは笑った。
まさか。でもシックな大人の店だが子ども椅子がある。倉庫にはドギーバッグ(残った料理の持ち帰り)用のボックスがそろっていた。アメリカらしい。
地元放送局のベスト・シーフード・レストラン3位に。
食の激戦区・サンフランシスコで開店して2年足らずで選ばれた。そうだろうな。
ムール貝は地元産ブルーチーズ入りで、スープがうまみたっぷりで。「替えムール」したくなったから。生態系を傷めない方法でとられた「サステナブル・フィッシュ」のみを扱い、地元産にこだわる。
経営者兼デザート係、真の役どころは…。
夫トシヒロさんがシェフで、80席あるフロアは友人夫妻が仕切る。ヒロコさんは評価の高いデザートを作りながら、20代の厨房スタッフに声をかけていく。
「私、みんなの母ですよ〜」。いやまさか。もてなし心は満タンでチャーミングで、どうしたって慕われるお姉さんのはず。
「メキシコの子たち、語学学校に行かせたいんですよ。ちゃんと勉強させたい。英語ができれば生き残れる」。
「トレス・レチェ風パンナコッタ」を紹介してもらった。
トレス・レチェ(Tres Leches)は「3種の牛乳」の意味になる。コンデンスミルクにエバミルク、生クリームにスポンジを浸した中南米のおやつで、ヒロコさんはペルー系の友人のパーティーで知ったという。
練乳は大好き、見逃すわけがない。ラテンの味をイメージしたパンナコッタに仕立てた。
ラテンは香る、少女の夢のせて。
スプーンですくう。まったりしてキャラメルみたい。のっかったイチゴがほほえましい。練乳といえばイチゴでしょう。乙女そのものだな。ヒロコさんたら、うふふ。
ひょっとして、この子、見たことある。
午前9時、スタッフが現れ始めた。バタバタと引き出しを開ける。お邪魔だな、おいとましよう。
台の上のタッパーに目が留まった。こんがり色の円盤が詰まっている。どこかで見たことあるような…。
「はい、ギョーザの皮です」。
やっぱり。いいアイデアだわ。どうやって作るんですか。「ええ、レシピも何もないですよ〜。説明するのもこっぱずかしいんだけれど…」。照れながら教えてくれた。
名付けて「ベークド・アオノリ・ジャパニーズ・チップス」。
店では魚のマリネや野菜のグリルに添えるそうだ。もちろんお酒のアテにもいい。パリパリした磯の香りが止まらない。
情熱の食ハンターは在住17年、まだ進化中。
2店目は?と問う。ほほ笑みながら言った。「もちろん考えています」。ほれた。抱きしめそうになった。あやしいか。
だって「まだまだ」「そのうち」じゃない。勝負する人は美しい。見習おう。2店目オープンには駆けつけよう。ありったけの愛を込めて。
☆トレス・レチェ風パンナコッタ(150㏄入りカップ2個)
エバミルク(無糖練乳)80g、牛乳80g、コンデンスミルク(加糖練乳)40g、板ゼラチン1枚(1.5g)
1. 板ゼラチンは氷水に浸してふやかす。
2. エバミルクとコンデンスミルクを鍋に入れて60℃ぐらい(少し湯気が立つ程度)まで温める。
3. 水けを絞った板ゼラチンを入れる。ゴムべらでよく混ぜて溶かす。
4. 牛乳を混ぜる。器に入れて2時間以上、冷やし固める。
<メモ>
・「Skool」では生クリームも入れます。牛乳80gを牛乳50g、クリーム30gにすればさらに濃厚に。お好みで。
・ラム酒を入れても。
・同量の粉ゼラチンでも作れますが、少量で計量が難しいので板ゼラチンをお勧めします。
☆青ノリ・チップス(直径8㎝20枚)
餃子の皮20枚(市販品)、水大さじ2、塩小さじ2分の1、オリーブ油小さじ1、青ノリ少々
1. 餃子の皮をオーブンシートを敷いた天板に1枚ずつ広げる。
2. 水に塩、オリーブ油を混ぜて溶かす。
3. 餃子の皮に小さじ3分の1ずつぐらいたらして塗る。
4.青ノリを散らす。170℃のオーブンでキツネ色になるまで焼く。8〜10分ほど。
<メモ>
・青ノリのほかにゆかり、すりごまでもおいしいです。
・「うまみを出したいときは水の代わりに昆布だしでも」とヒロコさん。