みちのく1.5人旅(上)〜岩手と宮城で「がんづき」に出会う★

カフェのショーケースにも「がんづき」が!しょうゆだんご(左)と「お茶もち」紫波の地酒「廣喜」「佐瀬式」の酒を搾る機械「廣喜」の「きりせんしょ」「がんづき」を作ってくれたヒロミさんヒロミさんの「がんづき」宮城では「がんづき」は左、右は「蒸しパン」岩手県釜石市の産直「橋野どんぐり広場」メープルシュガーの「がんづき」

「東北のおやつ」をテーマに6月、フランス巡業。

おやつを通じて少しでも被災地に寄り添えたなら。そんな思いからパリで6月、実演と試食セミナーをさせてもらう。セーヌ川沿いにある国際交流基金の施設・日本文化会館が引き受けてくれた。2年前、「ユズのおやつ」をテーマに開いて以来になる。

在住の料理ジャーナリスト・ユミコさんなくしては語れない。

彼女は私のハチャメチャ仏語やヘタな実演にツッコミを入れる「パリの師匠」になった。おまけに在ストラスブール総領事館にも紹介してくれた。会場は欧州評議会という。

いいんだろうか、私なんかで。えーい、いてまえー。おかげで「アルザス巡業」も実現することになった。

まずは歩こう。岩手・宮城へ。

ヒロミさんとJR盛岡駅で待ち合わせた。駅に直結した彼女の職場・県立図書館へ向かった。ピカピカでゆったりスペース、うらやましい。同僚アベさんに本棚の谷間で聞いた。なじみのおやつって何でしょう。

「お茶もち」「きりせんしょ」「がんづき」。岩手3大おやつ?!

ほほーっ。聞いたことがあるのは蒸しパン「がんづき」だけだった。味わってみなくては。ヒロミさんと図書館を出る。すぐ目の前のカフェのショーケースに目が止まった。
「がんづき 150円」。おお、いきなり。リンゴのケーキ、ガトーショコラといった洋菓子のわきに「当然でしょ?それが何か?」と言わんばかり、普通な顔して並んでいた。さすが。

お茶もち、学生時代の味。

岩手大学近くの「盛岡だんご 美勝堂」で「お茶もち」を買った。ぺったりしたお餅に、しょうゆだれがからまっている。お茶入りというわけではなく、「うちわもち」がなまったものという。「学生時代、お茶もちと牛乳でお腹いっぱいになった」とヒロミさん。牛乳、ってところがいいな。

南部杜氏発祥の里・紫波(しわ)町へ。

創業109年になる廣田酒造店を訪ねた。大吟醸酒「廣喜」などを生む小さな蔵で、ヒロミさんも仲間と酒造りに加わっているという。

女性杜氏の小野裕美さんが案内してくれた。もろみは「佐瀬式」と呼ばれる昔ながらの圧搾機で、重力だけでゆっくり搾る。「だから酒粕もおいしいんですよ」。小野さんの言葉にヒロミさんもうなずいた。

蔵のお茶請け、きりせんしょ。

蔵に来たお客さんにお茶請けとして出すのが、5代目当主のお母さん手製の「きりせんしょ」だった。だんご粉にしょうゆ、砂糖、水を入れて練り、蒸す。「クルミゆべし」のような味わいだな。

粕漬けのキュウリも出してくれた。さすが自慢の粕だけある。漬け物もセットなんだな。

がんづき、作ってみたい!

ヒロミさん宅を突撃訪問することにした。「不意打ちですね」。苦笑いしながら願いをかなえてくれた。

「夫のリクエストで時々作る」というがんづきは、友人の祖母のレシピという。名前の由来は諸説あって、丸いかたちに黒ごまが飛ぶさまが「雁と月」に見えることから「がんづき」と呼ばれるようになったとか…。

小麦粉に卵、砂糖、そして「酢」。

粉類を混ぜたら液体を少しずつ加えて蒸す。ドボドボ…たっぷり酢が入る。「酢を入れたらすぐ蒸すのが、コツといえばコツかな。ふくらまなくなる」。ピンクのシリコンケースで作ってくれた。ふわふわ、しっとり、なつかしい。不思議と酸っぱくならないんだな。

姫の作る「がんづき」。

岩手最終日、JR釜石駅から車で40分、内陸にある橋野地区のお宅に泊めてもらった。近くの産地直売所「橋野どんぐり広場」で「がんづき」を買い、東京に戻った。

自宅でいただいた。うわー、買った中では最高点だわ。ほんわり、甘さもバランスがいい。作り手は地元の女性グループ「橋野結い(ゆい)」姫」だった。思わず電話した。無理を言って配合を聞いた。きっと蒸し方も上手なんだろうな。

宮城で「がんづき」は…別物だった。

仙台から40キロ、冬にはハクチョウが舞う美里町の農家レストラン「野の風」を訪ねた。店主の伊藤恵子さんは言った。「この辺では<がんづき>は白いんです」。

岩手のがんづきとは全く別物、ういろうみたい。へーえ。ぷるんと歯ごたえがあって甘い。いつしかクセになりそう。小麦粉と砂糖を水で練って蒸すだけという。

ちなみに岩手の「がんづき」は、宮城では「蒸しパン」になる。どちらにしても農家の「小昼」と呼ばれる午前中のおやつとして愛されてきたんだな。

岩手と宮城の「がんづき」、両方をフランスで食べ比べてもらおう。「マカロン」と言っても地方によって違うようなもの…といえば、分かってもらえるかな。

☆岩手の「がんづき」(直径20㎝1台)

卵1個、薄力粉150g、三温糖120g、牛乳100g、ベーキングソーダ(重曹)大さじ2分の1(5g)、サラダ油大さじ2分の1(6g)、はちみつ大さじ1(20g)、酢50g、黒ゴマ大さじ1

1.ボウルに薄力粉、三温糖、重曹をふるい入れる。

2.別のボウルに卵、はちみつ、サラダ油、牛乳を入れてよく混ぜる。

3.粉のボウルに3回に分けて混ぜる。

4最後に酢を混ぜる。敷き紙かさらしを敷いた型へ流し入れる。よく蒸気の上がった蒸し器で蒸す。強火10分、中火20分ほど。蒸し上がったら網にのせて冷ます。

<メモ>
・酢を入れたらすぐに蒸さないとふくらみません。

★メープルシュガーで作ったら

三温糖を同量のメープルシュガーで置き換えます。ふわっと香りが立って、また素朴な「がんづき」に。