パリ・オスマン通りのレストラン「ポムズ(POMZE)」。
リンゴがモチーフのお気に入りの店で、リサさん母娘とランチした。めくるめくお楽しみ8皿のフィナーレが「クレメダンジュ」だった。
クレメダンジュ(crémet d’Anjou)はローヌ=アルプ地方の街「アンジュのクリーム」との意味で、チーズのデザートになる。ハート型がお決まりで、赤い実のソースがかかっている。
いかにもフランスらしい色合いだけれど、ポムズではパステル調だった。
白い皿にリンゴとルバーブのコンポートが敷かれている。
カリカリのメレンゲに白いチーズムースが、ほんわりと。淡い黄色や黄緑のリンゴチップスが羽衣のように飛んでいる。
ふわーり、ひらーり、かろやかに。
地下の厨房へ案内してもらった。狭い階段を下りる。
お菓子用のキッチンも2人立つのがやっとだった。パティシエールのカオリさんが迎えてくれた。
故郷・香川の洋菓子店で6年間、働いていた。メニューに載るデザート6〜7種類を1人で仕込んでいる。
「焼き菓子も皿盛りデザートも、両方やれて楽しいです」。笑顔で言った。いいな、素敵だな。
「できるまで」を見せてもらおう。
クレメダンジュはフロマージュ・ブランに生クリーム、メレンゲを混ぜる。「配合はお好みで」。腕の長さほどある大きなゴムべらを手に言った。
リンゴのコンポートは「混ぜないで煮る」のがコツ。
リンゴの皮をむいて粗めに切る。リンゴジュースを加え、弱火でコトコト煮る。
「このコンロ、たいして強火にならないから、お菓子作りにはちょうどいいんです」。使い込んだ電気コンロを見て笑った。
リンゴのジュレは温めたリンゴジュース400㏄に砂糖18gを溶かし、ふやかした板ゼラチン4gを混ぜて冷やし、ユルユルに仕上げる。
リンゴ・チップスは火を通してから。
リンゴはスライサーで薄く切り、煮立てたシロップに浸す。砂糖を振りかけ、110℃のオーブンで1時間半ほど乾燥焼きする。
「リンゴに火を通すと透明に仕上がります」。確かに色白のべっぴんさんだ。
生のまま乾燥させてもおいしいけれど、茶色っぽくなる。レストランならではのひと手間だな。
香川の嫁入り菓子「おいり」がモチーフ。
チップスはカシスやキイチゴのピュレに浸してパステル色にする。
彼女が教えてくれた「おいり」は赤や緑、黄色、カラフルな米菓子で、香川の引き出物に欠かせないという。へえ、お向かいの県育ちだが知らなかった。
晴れの日を彩る讃岐の伝統菓子が、パリのデザートとしてデビューするなんて。何だか我がことのようにうれしい。キュンとする。やっぱり思いがこもっている。物語がある。
お皿に盛りつける。
コンポートとジュレをお皿のくぼみに入れる。円盤のメレンゲでふたをする。
お皿にピッタリあうよう、メレンゲ型も手作りした。コンポートはかくれんぼさせて、メレンゲをスプーンで割ってからのお楽しみに。
上にチーズのムースをスプーンでのせる。「雲のイメージなんです。やわらかい雲、ほわほわーとしたイメージで」。なるほどね。
おしまいに「おいり」風リンゴ・チップスをまとわせて出来上がり。さすがレストランの細やかさだった。
中2のミキちゃんも取材。
メモを取りながらカオリさんの手元を見つめていた。「プチ・ボヌール」として友人や家族に自慢の腕を披露する「お菓子作家」なのだった。
カオリさんは目をパチパチさせてほほ笑んだ。「小さいころの自分を見ているようで…」。
彼女も小さいころからお菓子作りが好きで、図書館で借りた本を見てクッキーを焼いたりしていたという。
帰ってからミキちゃんに訊いた。カオリさんが言っていた本、何だったっけ。
さっき聞いたばかりなのにタイトルが出て来ない。アホかトシか私は。
「<わかったさん>ですよ」。そうだった。「わかったさんのクッキー」「わかったさんのマドレーヌ」…シリーズになっている本という。
そうか、私たちのころは「ぶきっちょさん」シリーズがあった。同じような感じだな。
ミキちゃんはキョトンとした。そりゃそうだ、知っているわけないよね…。
☆クレメ・ダンジュ(直径9㎝ボウル3個分)
無糖ヨーグルト200〜220g、生クリーム50g、卵白1個分、砂糖大さじ1
1. 無糖ヨーグルトはキッチンペーパーかふきんを敷いたざるにあける。5時間以上おいて水けを切る。約半量(80g〜100g)ぐらいになる。
2. よく冷えた卵白をボウルで泡立てる。ツノが立ったら砂糖を3回に分けて加える。しっかり混ぜてメレンゲにする。
3. 水切りヨーグルトに生クリームをなめらかに混ぜる。メレンゲを半分ずつゴムべらであわせる。器に雲をイメージして盛る。ジャムやコンポート、果物を添えてすぐに召し上がれ。
*すぐに食べない場合…キッチンペーパーかふきんに包んで冷蔵庫で冷やして。水分が出ません。とはいえ1日以内に食べ切って。
*フロマージュ・ブランは牛乳製のフレッシュチーズ。日本では手に入りづらいため、水切りヨーグルトで代用しました。