パリ日本文化会館の常連・エレーヌを訪ねた。
「あなたの得意のおやつレシピを教えて」。デモ中、呼びかけた。こたえてくれたのがエレーヌだった。試食中にテーブルを回っていて呼び止められた。
「レシピ、あるわよ。得意なのはクロッカンだけれど、塩味のほうがいい?」。
甘いものだけじゃない「おやつ」の意味を説明していた。分かってくれたんだな。うれしい。ナッツいっぱいのクロッカンは大好物だし、塩味も知りたい。「分かった、ちょっと考えてみるわ」。何を作ってくれるんだろう。
ワクワクしながら3日後に訪ねた。
6歳のユリスが迎えてくれた。絵本を手にしている。丁稚ケイに読むのだという。エレーヌが言った。「それ何?車の本じゃなくてもっと簡単なのにしなさい、動物の本があったでしょう」。
次から次へ男子あらわる。
学校から16歳のアルチュール、12歳のマルタンも帰ってきた。
えーっ、3人も。「できればもう1人欲しかったわ」。アルチュールはケイのためにじゅうたんを敷き、私がお茶を飲もうとするとサッと預かってくれた。感動した。何て気配りのできる16歳なの!
「いつも弟たちを見ているからね」。
部屋に案内された。
アルチュールは机も本棚もきっちり整とん、社長室みたい。マルタンは壁いっぱいに自分や家族の写真が張っていた。「で、三番目は両方のいいとこどりなのよ」。エレーヌが笑った。
3児の母は研究者でもあった。
パリの社会科学高等研究院(EHSS)で「不法滞在の現状」を研究している。すごい。多面体の人生にして、その余裕とパワーは何っ。
まずは塩味から。タマネギのタルト・タタン。
タマネギ6個を薄切りにして透明になるまでいため、型に敷き詰める。パイ生地でふたをしてオーブンで焼く…ところまで作っておいてくれた。
台所で腕まくりする。「さあ、ひっくり返すわよ」。
エイヤッと皿におき、型を外す。タタンは取り出すのが大変、崩れてしまうけれど…。
お見事、きれいに「タタン」になっていた。こういうと失礼だけれど、不思議。
6種類のおやつが並んだ。
旅先のチュニジアで買ったというガラスのカップにミントティーを注ぐ。素敵。
リ・オ・レ(ライスプディング)は…。
出た、牛乳がゆ。「日本の人は好まないのは知っているけれど」。イチゴジャムがのったのと、キャラメル味だった。私も以前は苦手だったけれど、住むようになってからOKになった。
母のおやつで好きなのは「クラフティ」。
アルチュールの言葉通り、グラタン皿にサクランボのクラフティがあった。甘さと酸っぱさがちょうどいい。
フランス人の作るクラフティはタネがついたまんまのが多いけれど、エレーヌのはちゃんと除いてあった。「だって、タネを口から出すのって美しくないでしょう」。
ルバーブのクランブルはオリーブ油で。
カリカリしたそぼろはバターではなく、オリーブ油で作ったという。サクサクした「おこげ」がいいな。
クロッカン・ミディ、やわらかい!
彼女の生まれたミディ(南仏)地方のお菓子という。ひとかじりする。クロッカンといえばナッツ入りメレンゲだけれど、色合いからして違うような…。あれ、かたくないんだな。
「そうでしょ、モワルー(やわらかい)のよ」。ほろほろとして、カリカリのナッツとのコンビがいいな。クロッカンのイメージが覆された。
また会いましょう。
お土産に金色リボンのかかった白ワインを渡された。実家がつくっているワインという。へえ、そちらもぜひ訪ねてみたい。「もちろん。次はどうぞ泊まっていって。お互い子どもが増えているかもね」。ままま、まさか。
大阪のマサコさんから帰国後、言われた。「そのうち第2子レポートも。チカコサンの場合、何でもアリですから」。ギャフン。本当にありえませんって!
☆クラフティ(18㎝×12㎝バット1台)
卵1個、砂糖大さじ2(30g)、薄力粉大さじ1(8g)、牛乳150g、さくらんぼ(冷凍イチゴ、ブルーベリー、バナナ、みかんでも)200g
1.卵に砂糖、薄力粉を混ぜる。牛乳も混ぜる。
2.型に果物を並べ、卵液をこしながら型に注ぐ。
3.オーブンを180℃に温め、160℃で30分ほど焼く。中心がふるえる程度でOK。
☆南仏クロッカン(直径6㎝、約16枚)
薄力粉90g、アーモンドパウダー30g、砂糖120g、ホールアーモンド170g、卵1個、バター30g
1. やわからくしたバターに砂糖、卵をよく混ぜる。
2. 薄力粉、アーモンドパウダーは一緒にふるう。バター液を加え、ゴムべらで切り混ぜる。
3. ローストしたアーモンドを粗く砕いて入れる。
4.敷き紙を敷いた天板に大さじ2ずつ落とす。
5.200℃にオーブンを温め、170℃で10分ほど焼く。
☆メープルシュガーで作ったら
・カラメルのような味わいで、素朴さが増します。