14区ダゲール通りは週末、のみの市でにぎわっていた。
骨の折れた傘、裏返ったままのセーター…。「これ売る?」「だれが買う?」。ハテナだらけになりつつ小路を入る。ビストロ「ル・コルニッション」はコインランドリーの先にあった。
友人カヨコさんの案内で店休日、お邪魔した。
シェフのマチューは赤いエプロン姿で迎えてくれた。
1年半前にオープンした店のキッチンは意外に広い…ように見えたけれど「スタッフ4人が入るとぎゅうぎゅう」なのだとか。
おまけに天井近くにお皿やチーズプレートが積まれている。身長175㎝ぐらいないと手が届かない…。
教わたのは「赤い実のタルティーヌ、はちみつヨーグルト添え」。
以前に勤めていたレストラン「ランバサード・ドーベルニュ」で覚えたデザートという。
まずはブリオッシュを焼く。
強力粉に当たる粉(T55)が1キロ、牛乳200g、生イースト40g、卵6個、砂糖26g、バター200gをこねる。
2倍にふくらんだら型に入れる。
小さなスプレーを取り出した。「どフランス」な香り、シュッシュッ。
オレンジフラワーウォーターだった。たっぷり何度もしみ込ませる。へえー、こんなふうに使うんだ。
フランスだとスーパーの製菓コーナーでも売っている。
その名の通りオレンジの花から抽出した香料で、冷たいデザートに使われる。
実は私、あまり得意じゃない。ちょっと化粧品っぽいような…。「あれ、苦手でした?」カヨコさんに心配される。いや、積極的に支持しない、というだけで…ゴニョゴニョ。
オーブンのそばに置いて発酵させる。
「40℃ぐらい、あたたかいところであればOK。きょうは厨房に人がいないから、ふくらみがいまひとつだなぁ」。マチューは笑った。
たっぷりグラニュー糖をふって焼く。
ふんわり、あら、いい香り。オレンジフラワーウォーターがいい仕事ぶりだな。苦手だったのに、焼くとなじむのか、嫌味がない。
ヨーグルトも自家製で。
牛乳1リットルにヨーグルト1ポット(120g)、はちみつ100g、オレンジ皮を混ぜて温める。
ブリオッシュ生地と同じように、あたたかいところに10時間〜14時間置いて発酵させる。
仕上げに赤い実をのせる。か、かわいすぎる。
切ったブリオッシュにキイチゴと赤い実のマラデボワを飾る。きゃー、何てかわいいの。
こうでなくちゃ。1人で盛り上がる。キイチゴもマラデボワも日本じゃ手に入りづらい。オレンジフラワーウォーターも。
これぞパリ、だな。
チーズのカッティングボードにヨーグルトとブリオッシュをのせて出来上がり。
ヨーグルトも酸っぱすぎない。はちみつが効いている。朝食みたいなデザート、愛らしい。シャッターを何回も切った。
戻って自家製ヨーグルトに挑戦。ううむ…。
日本のヨーグルトは種類も少ないし、どうも寒天っぽい気がする。自分で作ってみたかった。
マチューの説明どおりにした。いとも簡単そうだったのに、どうもさえない。
いつもオーブンやコンロに火がついているレストランの厨房と違い、ずっと40℃近い場所なんてないにしても…。
モロモロとカッテージ・チーズみたいになるか、逆にサラッとしたまま、単なる「ヨーグルト味の牛乳」で終わってしまうか。
炊飯器や魔法瓶でもできそうだけれど、どちらも持っていない。
あ、そうだ、保温ランチボックスはどうだろう。
試してみた。1晩たってふたを開ける。とろーり。お、なかなかいい感じ。でも舌にざらつきが残って、納得がいかない。
こうなったら真夏の東京のベランダで試してみるか…。ちょっと怖いけれど。
ミ・キュイ・ショコラ、コショウ味ヴァニラアイスを添えて。
とろりと焼くミ・キュイ・ショコラのレシピも訊いた。
後日、ランチでいただいて夢心地になったデザートだった。
マダガスカル産の粒コショウ入りアイス添えで、カヨコさんのアイデアという。
フォークを入れると流れ出すチョコレートとアイス、心がとろけるおいしさだった。
小麦粉を使わず、2種類のチョコレートにココアとバター、メレンゲを混ぜるという。
ヨーグルトのデザートにしろ、ミ・キュイ・ショコラにしろ、簡単そうに見えてやっぱり難しい。
すぐ楽しめるよう、簡単版ミ・キュイ・ショコラをどうぞ。
バターも粉も使わず、メレンゲを立てるだけ。半熟に焼いてとろーりと。
夏は焼かず、冷やすだけでもおいしいのでお試しを。
☆簡単ミ・キュイ・ショコラ(直径7㎝マフィン型3個分)
製菓用チョコレート(カカオ分60〜70%)50g、牛乳大さじ2、卵白1個分、砂糖小さじ1
白身はよく冷やしておく。
1. チョコレートをボウルに入れる。一回り大きい鍋に水を少し張る。ボウルの底が当たる程度でOK。40℃〜50℃の湯せんにかけて溶かす。牛乳を注ぐ。ゴムベラで混ぜてなめらかに溶かす。
2. メレンゲを作る。よく冷やした白身を水気のないボウルに入れて泡立てる。ツノが立ったら砂糖を加える。泡立て続ける。ゆるくおじぎするぐらい。
3. チョコレート液にメレンゲをひとすくい入れる。泡立て器で混ぜてなじませたら、メレンゲのボウルにすべて入れる。ゴムベラで切るように混ぜる。白いところがなくなればOK。
4. 型に入れる。焼く場合は200℃に温めたオーブンに入れ、170℃で7〜8分焼く。真ん中がふるえるぐらいで出す。アツアツを召し上がれ。
5. 冷やせば「ムース・オ・ショコラ」に。冷蔵庫で30分以上、置いてどうぞ。
<メモ>
・焼いてもすぐ食べない場合、冷蔵庫へ。ほろほろと軽い食感のガトー・ショコラ風に。
・ムースをバゲットに塗っていただくのがお気に入りです。