ジュネーブでアフリカに出会う。
ジュネーブでは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に勤めるトシさん、シゲコさんにお世話になりっぱなしだった。
彼らにとって最大の現場、アフリカのおやつってどんなだろう。同僚に聞き込みしてくれた。
アフリカに「お菓子」はない?
エチオピアで働いたシゲコさんの印象だと「東アフリカではあまりお菓子を食べない」。
彼女のエチオピア人の同僚も賛成した。ケーキなどは欧州からやってきているが、ローカルの甘いものはあまりないらしい。
西アフリカ・ナイジェリア出身者にも聞いてくれた。
「ナイジェリアでもあまりお菓子は食べない」。それでも2品、挙げてくれた。
「ピーナッツキャンディ」「コーン・プディ」だった。
「ピーナッツキャンディ」はピーナツをすりつぶして油分を出し、固めて油で揚げるという。「おこし」みたいな感じだろうか。
「コーン・プディ」はトウモロコシの粉とバナナを混ぜ合わせてペースト状にし、ホイルで包んで蒸すそうだ。おいしそう。まさに「おやつ」っぽい。
トシさんが紹介してくれたのが東アフリカのウガンダ出身・オリビアだった。
「バナナとマニョクの揚げ物」や「ピーナツとゴマの混ぜ混ぜペースト」を挙げてくれたという。どんなのだろう。
マニョクはタピオカになるキャッサバのことで、アフリカではよく食べられる。
トシさんによると「おやつ」というより食事の付け合わせに近いらしい。ワクワクする。
日曜日の昼下がり、「アフリカおやつ教室」スタート。
オリビアはジュネーブ在勤10年、もう独立した3人の子の母でもある。
まずは塩ピーナッツを披露してくれた。
オーブンに広げて、塩をまぶすだけ。か、簡単すぎるー。万国共通の味、ビールが欲しい。
米スタンフォード大のインターン・アリスが撮影係としてやってきた。
動画を撮り始める。オリビアは顔を覆った。「恥ずかしいから顔は撮らないで。声も変えてね」。
トシさんが言った。「大丈夫、ソフトで変換できますから」。カエルの鳴き声のように話してみせた。
それじゃあ何だか犯罪者のような…。
お次はバナナ・フリッター。
キャッサバ粉は小麦粉で代用するという。バナナは大きくつぶして、砂糖、卵、小麦粉を混ぜる。小さなコロッケ状にして揚げるだけ。フォーク1本で作れるのがいいな。もっちりして、ちょっと甘いぐらいで。確かに付け合わせっぽいかも。
オリビアは「バナナフリッター」と呼んでいたが、ウガンダの言葉では何て言うんだろう。
「カバラガラ」。オリビアはゆっくり発音した。
「カバラ、ガラ」。台所にいた4人が復唱した。何だかアフリカの大地のような、ゆったりした響きだな。
帰国してから作ってみた。
あれ、オリビアのようにきれいなかたちにならない。
オリビアは何気なく作っていたから気付かなかった。
どんなに簡単そうに見えても、自分でやってみなくちゃ、だな。丁稚ケイを抱っこしていて手が空かなかった…というのは言い訳だな。もっとタフに、もっとかろやかで行こう。
帰国後まもなく、トシさんから動画が送られてきた。
かたまってしまった頑固な砂糖を砕こうと格闘するトシさんの姿が映った。思い出し笑いする。
思えばカバラガラ、最大の難関だった…。
ぬいぐるみのネズミを腹にのせ、大の字で眠りこける丁稚ケイが無意味に写り込む。
シゲコさんのアパート入り口で何があったかバッタリ、仰向けで倒れていたリスみたい。
何ともシュールな図…。でもおかしい。製作費100億円、ハリウッドの感動巨編のような字幕が続く。
「技術が支配する世界で ある少女は…伝説になった」。ぷぷー。笑いこけた。いいな、いいな、真剣に遊ぶって。
☆カバラガラ風バナナのパンケーキ(直径10センチ7枚)
バナナ200g(約2本)、砂糖大さじ2(30g)、薄力粉80g、卵1個、バター 適量
1. バナナはフォークの背でつぶす。おおまかでOK。砂糖を混ぜる。
2. 卵を割り入れる。よく混ぜたら薄力粉をふるい入れて混ぜる。粉けがなくなるまで。
3. フライパンにバターを熱し、大さじ2ずつタネを落とす。直径10センチぐらいに広げる。
4. こんがり焼けたらひっくり返す。反対の面も同様に焼く。
<メモ>
・「カバラガラ」は焼かず、スプーンで落としてこんがり揚げます。
・そのままでもおいしいですが、ジャム、コンポート、メープルシロップを添えても。