貧しい時も病める時も、パスタとともに。
思えば中学時代から「家庭内パスタ係」だった。ニンニク、キノコを炒め、ゆでた麺とからめて納豆をのせる。
あれば青じそやツナ缶、タラコ…冷蔵庫にあるもので。30年来のマンネリだけれど、スパゲティ、ハヤシライスは私の当番だった。
いまでもほぼ1日1パスタのような。
パリ留学時代は一番安くてゆでやすいペンネをよく食べた。
丁稚ケイの離乳食もマカロニが主役だった。くたくたにゆでて、きなことメープルシュガーを混ぜる。甘いふにゃふにゃパスタ…とてもイタリア人には言えないが。
100gずつ束ねてある結束パスタを見るたび思う。「ご冗談でしょう」。
週末の昼はスパゲティ1袋(500g)を一気にゆでる。相方ユウさんが半分、私が4割、1歳3カ月の丁稚ケイが1割。
友人に言ったらたいてい驚かれる。「ま、まるで合宿ですね…」。
ピエモンテ初日のセージ入りバターのパスタが忘れられない。
「ラ・トッレ・デル・モナステッロ」は家族で営むバール兼食堂だった。
英語のメニューを出された。お、山奥なのに…と失礼にも思ったら、移住してきたイギリス人も多いのだとか。
どれどれ、何を頼もうか。ページをめくる。
あ、つづりミスがあちこちに。
「creami cheese sause」と言った具合に。親しみがわくな。
印字された「creami」の [i]には斜線がひかれ、「y」が手書きで直されていた。
お客さんが直したのかな。分からないけれど、ほほえましい。
ちなみにオーダーもなかなか覚えられず、訊き返してばかりいた。だ、大丈夫か。何だか応援したくなる。
「ブッロ エ サルビア」。
セージ入りバターがミートソース、ヘーゼルナッツのクリームソースの次、上から3番目にあった。
オリーブオイルじゃないんだな。バター文化圏・フランスに近いせいだろうか、
「ピエモンテ名物ですよ」。案内してくれたナベさんの一言で決めた。
やってきたのは黄色い麺に緑の葉がだらーんとのっかっている。おっきなセージだな。
2日後に訪ねた製麺所「タヤリンの家」でパスタ道を教わる。
「カーサ・デイ・タヤリン(タヤリンの家)」はキッチンスタジオ付きだった。
主人マウロは母の手打ちパスタづくりにヒントを得て脱サラした。
地元の製粉所「ムリーノ・マリーノ」製を使い、2時間で50キロを仕込む。。9〜10時間かけて乾燥させる。
ひたすらタヤリン。
タヤリンとはピエモンテ方言で「タリアテッレ(平打ち細麺)」だった。
卵入り、平打ち細麺…との定義だと思いきや。尾根ひとつひとつにタヤリンがあるという。生か乾燥か、卵入りか、なしか…。
パスタ博士のパスタ教室、拝見。
大なべでたっぷりのお湯をわかす。彼の商品には「パスタ500gに対し水7リットルで」とあった。
塩は大胆にほどふたつかみ入れ、パスタ500gをザーッと入れた。
パスタにしっかり塩をして、ソースには塩は入れない。
博士が1皿目に用意してくれた「パスタ・ビアンカ(白パスタ)」も、ゆでた麺にオリーブ油と黒こしょうをかけただけで、塩はしなかったな。
案内してくれたイクコさんにも教わった。ソースにベーコンが入るカルボナーラ(ベーコンと卵)やアマトリチャーナ(ベーコンとトマト)の場合、その分の塩分を控えるのだとか。
日本では白米は味をつけず、おかずに塩を効かせるから正反対だな。
チーズ多用、ちょっと待った。
「何にでもチーズをかけるのは、私はしないな」。マウロは言った。
彼に言わせればナスのトマトソースにはOKだけれど、肉や魚入りのソースにはチーズはいらないという。
食べる前から焼き魚にお醤油を回しかけるようなものか。
どっさり6袋3キロ、買ってしまった。
1袋500グラム入りで5.5ユーロ〜6.5ユーロだった。スーツケースに入れたら粉々になってしまいそう。
ハンドキャリーするしかないか。
クッション替わりに丁稚ケイのおむつを入れる。トリノ〜パリ、パリ〜東京と機内持ち込みにした。
おかげでほぼ折れずに東京へ。
もったいなくてなかなか使えそうもない。台所に飾っておこう。
いつのまにか丁稚ケイが手を伸ばし、袋ごとシャカシャカ振っている。1万キロを飛んでも無傷だったのに、敵は台所にあり。
や、やめてくれー。
☆バターとセージのパスタ(1人前)
パスタ100g、バター大さじ1、セージ(生)15枚(3茎)、塩大さじ1
1. 大なべに水1.5リットルを入れて沸騰させる。
2. 塩、パスタを入れる。表示の1分前になったら引き上げる。
3. 熱したフライパンにバターを入れる。溶けたらセージの葉を入れる。バターとなじめばOK。
4. ゆで上がったパスタを汁を切らないで入れる。強火でさっとからめる。セージの香りがたてばOK。
5. あればパルミジャーノチーズをかけても。