1ユーロ≒100円。
小さな店に入るのは勇気がいる。
フランスに限らず日本でも。入ってしまえば何てことない、のだけれど。
中をうかがう。あ、お客さん、だれもいない。入っても買わないかもしれない。とって食われるかもしれない。踏み出さない理由ばかり並べる。
ヘイチャラ、ヘイチャラ。だれもかみつきゃしない。
「ボンジュール」が無理ならハローでもコンニチハ、でもいいと思う。ご発声をどうぞ。
「メルスィー」と言って立ち去ればOKな、はず。
あ、でも。思い出した。京都でのこと。
ビル2階にある雑貨店に入った。北欧のノートや文房具、かわいいけれど…。
うろうろした挙げ句、手ぶらで店を出ようとした。「ありがとうございました」。レジの男性に声をかけた。
真顔で返ってきた。
「お客さん、忘れてますよ、買い物するの…」。ヒーッ、ス、スミマセン。逃げ出した。
私も修業が足りない。「店長さん、忘れてますよ、欲しいもん、売るの…」と言うべきだった。ちとシュールか。
「極上のコショウとヴァニラビーンズを」。
パリ出発前、友人に頼まれた。じゃあ行こう、「エピス・ロランジェ」へ。
ミシュランの三つ星を返上して引退したシェフのスパイス店は、パリ・オペラ座近くで和食屋が並ぶサンタンヌ通りにあった。
まずはコショウセット。19.5ユーロ。
マダガスカルとスリランカの黒コショウ、インド産の白コショウと緑コショウが入っていた。
マダガスカルの黒はゴマのようなシャープな香りがする。肉や魚に、とあった。スリランカの黒はどこかエスニックで、野菜やソースに。同じ黒でもずいぶん違う。
インドの白は魚のソースに、緑コショウは赤い実と一緒に、と注意書きにあった。
緑は確かにねっとり、甘い香りが立つ。すごい。
ヴァニラの海はパリにあった。
店の地下にはヴァニラを熟成させる専用カーブがあるという。
インド、マダガスカル、タヒチ、レユニオン、ウガンダ…産地や品質ごとに17種類もあった。すごい。
棚の右から左までぜんぶいただくわ。言いたくなった。さすがパリ。
値段を見ずにまず、香りを楽しもう。
インド洋に浮かぶグランドコモロ島、ちょっとスーッ。値札を見る。3本8.8ユーロ。
アフリカ中部、コンゴのはキャラメルっぽい。3本9.75ユーロ。
仏領レユニオン島のは、空けた瞬間、まったり。た、たまらんー。3本12.6ユーロ。あ、やっぱり。
インド産は落ち着いた感じ。3本5.05ユーロ。
サブレを買わずにいられない。2.5ユーロ。
食材店「Tomat’s」は分かりづらい。6区ヤコブ通りに面した建物を入る。ひっそりと中庭の片すみにある。
バターサブレは賞味期限が近いバーゲン品だった。見かけぬ顔だな。「ひょっとしてアタリだったら…」。つい手が伸びる。結果は…フツーにおいしかった。
ブルターニュ産のサバ缶、4ユーロ。
白ワイン・ミュスカデでマリネしてあるとあった。
レモンとピクルス入り。たっぷりのタマネギスライスとあえていただいた。2ユーロだったらもう1缶買ったなぁ。
バスチーユの菓子店「アンドロー」へ。
ピアニスト・ヨーコさんお気に入りのお店で、フランス各地のお菓子がそろう。クラシックな店構えもそそられる。
缶欲しさにパン・デピス、24ユーロ。
仏中部の街ディジョンの創業1796年「ミュロ・エ・プティジャン」製だった。ジャム入りパン・デピスが3つ、入っていた。スパイスたっぷりでみっちり重いという印象のパンデピスだけれど、思いのほか軽かった。まあ缶代…。
パット・ド・フリュイ(フルーツ・ゼリー)、コクリコ(ひなげし)のキャンディーも手にした。どちらもいかにもフランスらしい。
小さな板チョコはコーヒーのおともに。
ベルギーのチョコレート「ドルファン」もあった。ちょっと手製菓子に添えて渡すにもいい。
さーて、何が入っていると思う? 相方ユウさんに黙って出した。
コショウ入りは「え?フルーツ?いやナッツ?」。アールグレイ味は「何か粉みたいのが入ってる?」。まぁそんなものだろうな…。