11月22日午前4時16分、母は1人で旅立った。
たくさんのチューブが外される。もういらないんだな。
3年ほど一緒に暮らした甥っ子ユウが泣きじゃくる。
「おばあちゃん、泣いとると」。
そうかな…。いや、大人には見えないけれど、6歳の目には映っているのかもしれない。
「ユウチャン、一緒に歌おう」。
「ゆーりかごーの、うーたを、かーなりやーが、うーたうよー」。
2人で抱き合って歌った。
「お化粧されますか」。看護師さんに訊かれた。ええっと、化粧品は…。
小さな化粧道具を渡された。「遺体用」とあった。何でもあるんだな。
うまくファンデーションがのばせない。
「痛いわ」。母に怒られそう。
どこかへ行っていた姉が戻ってきた。
自分の化粧ポーチから口紅やチークを取り出す。てきぱき仕上げる。
姉のようなメークの母になった。
姉は葬儀社を探していた。
「そこしか知らんかったから」。googleで電話番号を調べ、お願いしたという。
病室を片づける。
「もう、ええなぁ」。
叔母に薬の束を見せられた。
母は朝昼晩ごとに10錠以上、きっちり飲んでいた。
もういらない。袋ごとゴミ袋に入れた。何とも言えない気持ちになる。終わったんだな。
午前6時半、まだ薄暗い病院を出る。
病院で寝ずに過ごした。甥っ子や丁稚ケイをお風呂に入れ、少し眠らせよう。
夕食用に炊いていたご飯で三角おむすびを握る。
母の分も作ろう。
小さく2個、握った。
姉は母が生前、「遺影に」と写した写真を引っ張り出した。
「お母さん、気にいっとらんかったけどなぁ」。
1年余り前、子ども用の写真館に出かけた。甥っ子の七五三、ケイのお宮参りが名目だった。
家族写真の撮影が終わって母が突然、言い出した。
「1人で撮りたい。遺影にするんじゃ」。
姉と顔を見合わせた。「いま撮らなくたって…」。私は言った気がする。
「チカチャンに怒られたんよ」。母は叔母にそう告げたらしい。
お葬式は勤労感謝の日になった。
何だか母らしい。40年近く、ずっと働いていた。
私は眠れなかった。
流れるように段取りが進む。花やお礼の品…どこにも心を込める、すきがない気がした。
少しでも何かしたい。来てくれた人に渡せたら。母にも私の手作りのものを持って行ってもらえたら。
お通夜から戻って「おからロシアンクッキー」を合計160個、夜明けまで焼いた。
母も「しろいの、おいしい」と言ってくれていた。
丁稚ケイは葬儀中、ずっと眠っていた。
見送るころの午後1時、ケイが言った。
「おばーちゃん」。
「あ、言った」。見守る人から声が漏れた。最期になって、やっと言えた。
母は電話口で「おばーちゃん、って、言ってごらん」と教えていたから。
火葬は6580円だった。
内訳は火葬料が2000円、有料待合室が4580円。
「安っ」。思わず言った。
コンクリに埋めたり山に捨てたりする犯罪って、やっぱり割にあわない。割にあう犯罪、ってのもないか。
あとから調べた。東京だと5万9000円ぐらいするらしい。
さすが東京、生きるのも死ぬのもおカネがかかるんだな。
自分の葬儀を考える。
姉に言った。
「私、花はガーベラ1輪でええわ」「遺影はパリ・マラソンの写真にして」。
生きてピンピンしているうちに話しておかないと、いざ病気になってからは言い出せないものなんだろうな。
遺影は準備した母だったが結局、遺言らしきものも、書き置きもなかった。
まだ現実味でなくて、母のことと、いつもの日常がフワフワ折り重なっている。
いまの思いを忘れず、たくましく前に進もう。
迷ったらゴー、いや、「迷わずにゴー」しよう。
「そのうち」とか「徐々に」とか、うだうだしているヒマはない。
しっかり好きな道を歩こう。生きる、ってそういうことなんだろう。
☆シロイノ
材料(直径2㎝、23個分)
バター40g、砂糖 20g、おから 20g、アーモンドパウダー 20g、コーンスターチ 20g、薄力粉 20g、塩ふたつまみ、粉糖 大さじ2
1. 室温に置いてやわらかくしたバターに砂糖を混ぜる。よく練る。
2. アーモンドパウダー、おからを混ぜる。
3. 薄力粉、コーンスターチ、塩をふるい入れる。カードで切り混ぜる。
4. 直径2センチにまるめ、オーブンシートを敷いた天板に並べる。
5.200℃にオーブンを温め、170℃で10分ほど焼く。底がほんのり色づけばOK。
6.冷めたクッキーと粉糖をポリ袋に入れる。よく振って粉糖をまぶす。
<メモ>
・おからなしでもおいしいです。アーモンドパウダー、コーンスターチ、薄力粉それぞれ25gずつでOKです。
☆メープルシュガーで作ったら
砂糖20gをメープルシュガーに置き換えます。歯ごたえがカリカリ、カラメル風のコクが最高です。