母の旅立ち<下>★

2010年3月、母撮影。自分で描いた水彩画2010年6月、母撮影。自分で描いたアジサイ2012年1月、岡山で母撮影。生後6カ月のケイ
2010年10月、母撮影。病室から遺影の前で遊ぶ孫3人お葬式の控室で絵本を眺めるケイカリカリ歯ごたえ最高メープルシュガーで焼くと・・・おからロシアンクッキーこと「シロイノ」

11月22日午前4時16分、母は1人で旅立った。

たくさんのチューブが外される。もういらないんだな。

3年ほど一緒に暮らした甥っ子ユウが泣きじゃくる。

「おばあちゃん、泣いとると」。

そうかな…。いや、大人には見えないけれど、6歳の目には映っているのかもしれない。

「ユウチャン、一緒に歌おう」。

「ゆーりかごーの、うーたを、かーなりやーが、うーたうよー」。

2人で抱き合って歌った。

「お化粧されますか」。看護師さんに訊かれた。ええっと、化粧品は…。

小さな化粧道具を渡された。「遺体用」とあった。何でもあるんだな。

うまくファンデーションがのばせない。

「痛いわ」。母に怒られそう。

どこかへ行っていた姉が戻ってきた。

自分の化粧ポーチから口紅やチークを取り出す。てきぱき仕上げる。

姉のようなメークの母になった。

姉は葬儀社を探していた。

「そこしか知らんかったから」。googleで電話番号を調べ、お願いしたという。

病室を片づける。

「もう、ええなぁ」。

叔母に薬の束を見せられた。

母は朝昼晩ごとに10錠以上、きっちり飲んでいた。

もういらない。袋ごとゴミ袋に入れた。何とも言えない気持ちになる。終わったんだな。

午前6時半、まだ薄暗い病院を出る。

病院で寝ずに過ごした。甥っ子や丁稚ケイをお風呂に入れ、少し眠らせよう。

夕食用に炊いていたご飯で三角おむすびを握る。

母の分も作ろう。

小さく2個、握った。

姉は母が生前、「遺影に」と写した写真を引っ張り出した。

「お母さん、気にいっとらんかったけどなぁ」。

1年余り前、子ども用の写真館に出かけた。甥っ子の七五三、ケイのお宮参りが名目だった。

家族写真の撮影が終わって母が突然、言い出した。

「1人で撮りたい。遺影にするんじゃ」。

姉と顔を見合わせた。「いま撮らなくたって…」。私は言った気がする。

「チカチャンに怒られたんよ」。母は叔母にそう告げたらしい。

お葬式は勤労感謝の日になった。

何だか母らしい。40年近く、ずっと働いていた。

私は眠れなかった。

流れるように段取りが進む。花やお礼の品…どこにも心を込める、すきがない気がした。

少しでも何かしたい。来てくれた人に渡せたら。母にも私の手作りのものを持って行ってもらえたら。

お通夜から戻って「おからロシアンクッキー」を合計160個、夜明けまで焼いた。

母も「しろいの、おいしい」と言ってくれていた。

丁稚ケイは葬儀中、ずっと眠っていた。

見送るころの午後1時、ケイが言った。

「おばーちゃん」。

「あ、言った」。見守る人から声が漏れた。最期になって、やっと言えた。

母は電話口で「おばーちゃん、って、言ってごらん」と教えていたから。

火葬は6580円だった。

内訳は火葬料が2000円、有料待合室が4580円。

「安っ」。思わず言った。

コンクリに埋めたり山に捨てたりする犯罪って、やっぱり割にあわない。割にあう犯罪、ってのもないか。

あとから調べた。東京だと5万9000円ぐらいするらしい。

さすが東京、生きるのも死ぬのもおカネがかかるんだな。

自分の葬儀を考える。

姉に言った。

「私、花はガーベラ1輪でええわ」「遺影はパリ・マラソンの写真にして」。

生きてピンピンしているうちに話しておかないと、いざ病気になってからは言い出せないものなんだろうな。

遺影は準備した母だったが結局、遺言らしきものも、書き置きもなかった。

まだ現実味でなくて、母のことと、いつもの日常がフワフワ折り重なっている。

いまの思いを忘れず、たくましく前に進もう。

迷ったらゴー、いや、「迷わずにゴー」しよう。

「そのうち」とか「徐々に」とか、うだうだしているヒマはない。

しっかり好きな道を歩こう。生きる、ってそういうことなんだろう。

☆シロイノ

材料(直径2㎝、23個分)

バター40g、砂糖 20g、おから 20g、アーモンドパウダー 20g、コーンスターチ 20g、薄力粉 20g、塩ふたつまみ、粉糖 大さじ2

1. 室温に置いてやわらかくしたバターに砂糖を混ぜる。よく練る。

2. アーモンドパウダー、おからを混ぜる。

3. 薄力粉、コーンスターチ、塩をふるい入れる。カードで切り混ぜる。

4. 直径2センチにまるめ、オーブンシートを敷いた天板に並べる。

5.200℃にオーブンを温め、170℃で10分ほど焼く。底がほんのり色づけばOK。

6.冷めたクッキーと粉糖をポリ袋に入れる。よく振って粉糖をまぶす。

<メモ>

・おからなしでもおいしいです。アーモンドパウダー、コーンスターチ、薄力粉それぞれ25gずつでOKです。

☆メープルシュガーで作ったら

砂糖20gをメープルシュガーに置き換えます。歯ごたえがカリカリ、カラメル風のコクが最高です。