新刊の撮影2日目。
初日で1、2章のレシピ写真を撮り終わった。
残るのは3章に収める13品に手順写真などだった。
キッシュやマーマレードのケーキ…。
フランスやイタリア、スイスで教わったおやつたちを撮っていく。教わった人たちの顔が浮かぶ。
2DKの住まいに編集者、カメラマン、ブックデザイナー、スタイリスト、そして私の5人がひしめく。
スタイリスト・キョーコさん。コツは「なり切る」。
東京・西荻窪で「日々の食と道具の店 364(さんろくよん)」を営むかたわら、料理本や雑誌のスタイリングを多数、手がけている。
かわいらしいロールケーキの本を演出したかと思えば、ごくシンプルな料理を器で引き立てたり。
同じ人とは思えぬほど雰囲気が違う。
フォーク1本を置くのだって、キョーコさんの手にかかればサマになる。
1冊ずつ、本の世界に「入り切る」。今回だと「タダサンになり切っている」。すごい。まるで女優さんみたい。
そういうと「いえいえ」と照れた。
2章に登場するスコーンのスタイリングに鳥肌が立った。
桜の花入りディップを盛り付ける。
こんもり盛るのかな、と思ったら、器にナイフで、シュッ、となでつけた。
うわぁ、素敵。桜の花が押し花みたい。押し花ディップ、とでも名付けたい。
魔法のひとなでだった。
「ディップが別のページにもあるから、変化をつけようと」。さすが。
マーマレードケーキもナッツケーキも「お店みたいな仕上がり」よりも、ちょっとかたちのいびつな子を選んでいく。
「あ、これなら私でも作れそう」と思ってもらえるように。
巣鴨のパン店「喜福堂」のマユコさん、手作りのまかない。
私が好きなお店おやつを紹介するコラム「偏愛おやつ図鑑」のページに、大好きな「喜福堂」のあんぱんを載せたい。
でも撮影中、買いに行く余裕がない。
配達してもらえないだろうか。無理を承知で頼んだ。マユコさんは快く引き受けてくれた。
「遅くなってごめんなさいっ」。お昼過ぎに白衣姿のまま、山ほどのサンドイッチと一緒に抱えて来てくれた。
本当にありがたい。
編集者ミナコさんはスーパーに何度も走ってくれた。
キッシュに添えるクレソン、チーズケーキ添える洋ナシ…。
撮影後のクレソンを添えたキッシュを食べる。
みんなでムシャムシャ…。クレソンって、妙にクセになるな。
午後6時、撮影終了。
2日間、ずっとドキドキしていた。ものすごーく、いい本になる気がする。
これまでの3冊、どの子もかわいい。でも、さらにバージョンアップしたような。
1人で興奮する。親ばか全開だな、でもいっか。
タイトルは「世界のおやつ旅」に。
撮影して1週間後、ミナコさんから連絡があった。迷っていたが「突然これにしよう!」と降ってきたそうだ。
わーお、「兼高かおる世界の旅」をほうふつとさせる(しないか)。世界のおやつ旅。声に出して言ってみた。いいな。
撮影を終えて福岡へ。
入院中だった母を見舞った。撮影が終わったことを話した。
「それで本は?」「撮影が済んだばっかり。すぐには出来んよ」。そんな会話をした。
限られた字数で作りやすいよう工夫しなくては。さらにレシピを改良しつつ、作りながら書き上げる。
脱稿して2日後、母が亡くなった。
「おからロシアンクッキー」「文京ジューシー餃子」「ユズ大根」…。本に登場する何品かは食べてもらっていた。
ますます力が入る。どうしてもいい本にしたい。きっと母も、楽しみにしてくれているはずだから。
☆ハッピー・ドーナッツ(直径10㎝7個)
卵 1個、砂糖 100g、サワークリーム 40g、キャノーラ油 大さじ1、薄力粉 140g、ベーキングパウダー 小さじ 1 ナツメグ(あれば) 小さじ 1/4、揚げ油 適量
1. 卵に砂糖、サワークリーム、キャノーラ油を泡立て器でよく混ぜる。
2. 薄力粉、ベーキングパウダー、ナツメグをふるい入れ、ゴムべらで混ぜる。
3. 絞り袋かジッパー付き袋に入れる。1時間ほど冷蔵庫で休ませる。
4. 袋の隅を2㎝ほど切る。10cm角の敷き紙に輪っか型に絞り出す。
5.170℃に熱した揚げ油にそっと紙ごと生地を入れる。1分半ほど揚げてフライ返しなどで裏返す。再び1分半、こんがり揚げる。
☆メープルシュガーでつくったら
砂糖を全量、メープルシュガーで置き換えます。コクがあって病みつき、たまりません。