ニュージーランドでギリシャ名物のディップを習う。
ハミルトンにあるワイカト大学で日本語を教えるフミコさんが、同僚を紹介してくれた。
「フモス(ヒヨコ豆のディップ)」の名人なのだとか。豆好きとしてはたまらない。
料理上手のアシーナ宅へ。
滞在先のモーテルに迎えに来てくれた。
市街地を抜けて10分、あっというまに牛が草を食む野原を走る。
彼女はパートナーのクリスと7カ月前から一緒に住み始めたばかりだった。彼も牛を飼っているのだとか。
ベジタリアン歴1年。
瞑想のレッスンを受けたのがきっかけだった。「でも、たった1年前からだから、えらそうなことは言えないのよ」。
肩をすぼめて恥ずかしそうに言った。
「クリスは肉を食べるから、私は料理だけして試食さえしないの。だからどんな味付けだか…、アハハ」。
母のクリスティーナさんは1947年、英国人の父とニュージーランドにやってきた。
21歳だったという。
ギリシャ料理ムサカや白インゲン豆のスープ「ファソラーダ」、タラモサラダ…どれもなつかしい。
フードプロセッサーや木のヘラは4年前に亡くなった母のものを大切に使っている。
フムス・レッスン、スタート。
缶のヒヨコ豆をざるにあけた。
「乾燥の豆でもいいけれど時間がかかるでしょ。簡単なのが一番よ」。そうそう、そうでなくっちゃ。
タヒーニは白練りごまで代用できる。
ニンニクはごく少々、塩。
「市販品はニンニクがきついでしょう」。確かに、フムス=ニンニク味とのイメージだもの。
アシーナはレモン汁を搾り入れたあと、レモン皮をすりおろして混ぜた。お、味の秘けつか。
いい香りが広がる。
さわやかフムス、ニュージーランドらしい。
アシーナが冷蔵庫から瓶を取り出した。
オリーブみたいだけれど…。
ふたを開けて黒い漬け汁をスプーンで探る。あれ、何もない。
「あらー、いつのまにか空っぽだったわ」。アシーナが笑った。
オリーブでウサギ型にして飾るのだという。なぜウサギ…でも妙にかわいいな。
1㎝厚さの薄いパンを焼く。
焼けたら皿にのせる前にラックにかける。「片側が湿気て、おいしくないでしょう」。アシーナが言った。
庭からひと摘み、イタリアンパセリ。
トーストにフムスを塗って、刻みパセリを散らしていただこう。
庭の木のベンチに腰掛ける。
あ、あの影は。「プケコよ」。アシーナが言った。羽が青くて黒っぽい鳥がテクテク歩いている。
ニュージーランドの飛べない鳥がお散歩中だった。庭に現れるんだ。
レシピを丁寧に紙に書いてくれた。
タイトルは「アシーナのフムス」。
帰国してから試作する。
ヒヨコ豆の替わりに水煮の大豆はどうだろう。思いついて試作した。うーん、何か違う。やっぱりヒヨコ豆だな。
黒オリーブで黒ウサギを。
オリーブ1個を顔に見立ててフムスに埋める。8分の1に切ったオリーブを耳にして、イタリアンパセリを飾る。
草を食む黒ウサギに…見えるかな。
アシーナのフムス(約250g)
ヒヨコ豆1缶(200g)、白練りごま 大さじ3、レモン汁 大さじ2、レモン皮 2分の1個分、ニンニク 3分の1片、塩 小さじ3分の1
1. ヒヨコ豆は缶から出して水けを切る。
2. 白練りごま、ニンニク、塩を入れてフードプロセッサーで混ぜる。
3. 豆がつぶれたらレモン汁、レモン皮を混ぜる。
4. あれば黒オリーブ、イタリアンパセリ、ケッパーで飾る。バゲットやトースト、クラッカーにのせてどうぞ。