東日本大震災の4日前。
クライストチャーチに住むヨーコさんからメールが届いていた。彼女は185人が犠牲になった地震に遭ったばかりだった。
崩落した大聖堂から徒歩1分のビルが職場だった。
ヨーコさんが駆け下りた階段とは反対側にあった階段は崩れ落ち、何人かが命を落としたという。
焼き菓子ボランティア「ベーキング・アーミー」の活動を教えてくれたのもヨーコさんだった。
市民たちが被害の出た地域にマフィンやバンズを焼いて届ける。「空腹を満たすだけではなく、心を満たす手伝いができたら…」。そうつづられていた。
綱渡り海外暮らし、4年で5か国。
研究者であるロシア人の夫、2児とともに京都から豪州へ渡った。イギリスやロシア、日本を含めて4年で5カ国をめぐり、保育所や学校に通わせた。
ニュージーランドにやってきたのは4年前だった。クライストチャーチから昨年、ハミルトンへ移ったという。「どうせ綱渡りをするなら好きな国で」。偶然が重なって会えるなんて。
ママのパブロワ、大聖堂の思い出。
築90年になる家を訪ねた。ニュージーランド名物・パブロワをふるまってくれた。私のわがままにこたえてくれたのだった。
メレンゲをリースみたいに焼き、食べる直前に生クリームをたっぷりのせる。
卵白5個分を使ったという。「この半分で充分だといつも後悔するけれど…。お一人様サイズの小さいパブロワにしたい」。
キウイ(NZ人)たちはドカーンと普通のケーキサイズで焼く人が多いという。
ヨーコさんのはキウイとバナナがのっかっていた。ドカーン・サイズにキウイ、これぞニュージーランドだな。
生クリームがおいしいったらない。
ヨーコさんの愛息ボリス君は何度もおかわりしていた。大好きなんだな、ママのパブロワ。
ロシア人バレリーナの名前を冠したお菓子の起源は…。
オーストラリア説とNZ説があるのだとか。オックスフォード辞典に「ニュージーランドで最初に作られた」と記載され、キウイたちは大喜びしたらしい。
パブロワといえば…いまはなき大聖堂。
クライストチャーチ大聖堂で3年前の8月、「世界一大きなパブロワ」のお披露目があった。ヨーコさんも寒い朝、2人の子連れで訪ねたという。
床いっぱいに真っ白なパブロワが置かれていた。縦10m、横 5m、1万食分だった。
いまだに子どもたちは「世界一大きいパブロワを食べたね!ママ、作って」と言うのだとか。
「パブロワというと地震で崩壊し、再建を断念して解体された大聖堂を思い出します」。ヨーコさんは教えてくれた。
メレンゲ×クリーム、最強タッグ。
そういえばスイスでも似たようなデザートに出会った。カリカリに焼いた手のひらサイズのメレンゲに、グリュイエールのダブルクリーム添えが名物だった。
どちらの国もおいしいクリームを味わうためのお菓子だな。
パブロワにはほんのすこーし、コーンスターチが入る。しっとりねっちりして、また違った味わいだな。
いまなら桜パブロワにしてみよう。ニュージーランドに根付いているヨーコさんのイメージで。
「この国が好き」。インドに引っ越してもそう言えるように、ヨーコさんを見習おう。
ヨーコさんのパブロワ(直径7㎝、6個分)
卵白 2個分(70g)、砂糖75g、コーンスターチ小さじ1、酢小さじ1、生クリーム200cc、砂糖大さじ1
1. 卵白は水気のないボウルに入れて泡立てる。
2. ピンと泡立ったら砂糖を半分加える。
3.またしっかり泡立てる。残りの砂糖を混ぜる。
4. コーンスターチ、酢を混ぜる。大盛り大さじ3ずつほどオーブンシートの上に落とし、直径7㎝、厚さ2㎝ほどの円形にする。
5.よく温めたオーブンに入れる。120℃で1時間半ほど焼く。
6.砂糖を加えて泡立てた生クリーム、キウイなどのフルーツをのせてどうぞ。塩抜きした桜の花の塩漬けを飾っても。
<メモ>
クリームをのせるのは必ず、食べる直前に。
☆メープルシュガーで作ったら
砂糖全量をメープルシュガーに置き換えます。カラメルっぽい風味がたまりません!