もう15年以上は通っているお店です。京都亀岡の「拓朗亭」(たろうてい)という蕎麦屋。
その昔、各地の蕎麦屋を共に行脚した友人の岡本さんが、こちらのお店を見て「関西蕎麦ルネサンス」と名づけました。
以来、その言葉はやがて雑誌などでも謳われるようになり、同時に関西に手打ち蕎麦ブームが到来したわけです。
僕も雑誌などに「関西蕎麦ビッグバーン!」などと何度書いたか分かりません。
と言うと、みなさんはきっと頑固な職人をイメージされると思いますが、ちょっと違います。店主の名は矢田昌美さん。
なぜ僕がメープルシュガーを持っていったのかってことです。その答えは、矢田さんが遊び人だからです。
自称「唐変木」(トウヘンボク)。「唐変木蕎麦之會」なるものも主宰されています。辞書によると「気のきかない人物、物分かりの悪い人物をののしっていう語」。おまけに落研出身。
僕流に言わせてもらえば、不良、ワル、イタズラっ子です。ま、ボロクソですね。
そんな店主ですからメニューもアミュージング&ワイルドです。蕎麦尽くしの創作懐石なんてのは当たり前。フレンチやイタリアンなどの西洋アレンジや、最近では僕がブレンドするスパイスで作るカレー&ライスもだされています。
もちろん、すべてのどこかに蕎麦を使われてのことですけども。
そしてその延長線にスィーツもあるんです。
いろいろなものがありますが、中でもロングヒッターなのは蕎麦の実アイス。ぷちぷちと蕎麦の実がはじけてとても香ばしい。今までたぶん100個は食べさせていただいていると思います。
ある日のこと、僕はスパイスを使ったアイスクリームに挑戦したくて門を叩きました。矢田さんからあれこれとご教授をいただくうち、やがてシナモンとグリーンカルダモンのチョコアイスなるものが見事に構築されました。
しかし、やはり僕などはにわかゆえの素人芸。幾度も修羅場を越えてきた師匠にかなうはずがありません。
ましてやそこにメープルシュガーなんてものが入っちゃうと、こりゃもう落語ならぬ神と仙人の漫才コンビとでもいいたくなります。
矢田さんがまず観たのはメープルの香りでした。できあがったそれを口に入れると本当に薫るんです。冷たいのに不思議です。南国の黒糖とは違う、明らかにメープルのふんわりと優しい風味。
そして口当たりのよさにも驚きました。表面を見ると、通常のアイスクリームよりもきめが細かいのです。
で、これがまるでチーズかバターのような舌触り。自分までとろけていきそうです。
僕とスタッフの女性たちが「とろける〜」を連発しているうちに、店主が腕を組んでこうささやきました。
「よし、名前を決めたで。これは貴婦人のトロ〜ントや」
「んなもん小話にもならへんやん!」(娘さんのサヤカさん)
つづく
☆With メープルシュガーレシピ10
『貴婦人のトロ〜ント』
(5人前・約1L)
卵黄 3個
メープルシュガー 80g
生クリーム 200cc
ミルク 180cc
蕎麦の実 適量
1.玉子を割って卵黄のみを取り出す。
2.メープルシュガーを入れてよ〜く混ぜる。
3.生クリームとミルクを入れてよく混ぜる。
4.アイスクリームメーカーに投入。後はお任せ!
5.出来上がれば盛り付けて蕎麦の実を振り掛ける。