中華風カレー丼〜天津編★

『中華風カレー丼〜天津編』スープの材料をあわせておく。3つの野菜を賽の目切りに、ニンニクとショウガは細かくみじん切りにしておく。玉子を溶く。片栗粉に水を加えて混ぜる。丼にご飯を盛り付けておく。熱したフライパンに油をいれて玉子を焼く。カニの身を加える。(ハムやエビを入れてもおいしい)裏面も焼き、好みの焼き加減になったらご飯の上に載せる。再びフライパンに油をいれ、2をすべて入れて炒める。カレー粉と塩を入れてよく混ぜる。全体がまとまったら、1を入れる。
片栗粉を加えてとろみをつける。強火でよくかき混ぜるとなめらかになる。火を切り、酢とごま油をひとたらし。軽く混ぜる。
玉子焼きの上にかけたらできあがり。
『中華風カレー丼〜天津編』

一見は中華丼。
でも香りはカレー。そしてよく見れば色はちょいと焦げ茶色い。
食べてみると八宝菜のような野菜の歯応えと旨味があって、ご飯を飲み込むあたりでようやくカレー風味がやってくる。

中華なんだけどあくまで風味レベルのちょいカレー。
8割中華、1割カレー、残り1割が正体不明のゾーンなのです。

今はなき、裏町の大衆中華屋「S」にあった人気メニュー「中華風カレー丼」です。
あれは確か1980年代後半。
僕が21,2歳の頃で、高校時代に最も長くバイトした店であり、その後、修行として改めてお世話になっている時でした。

チーフはとにかく毎日完璧なルーティーンをこなす人で、メニューの構成も値段も一切変えません。
(チーフとは=店主のこと。当時の奥様がめちゃ怖い人だったので人はそちらを社長と呼びました)

そんな微動だにしない人が、この優柔不断というかグレイゾーンなものをメニューに導入したわけです。
いったいなぜかというと、それはカレーではなく、あくまでカレー風味であったからです。

とくに今の時代は、他業種がすぐに他業種の味を横取りするかのように作ってしまいます。
裏メニューならまだしも、やたらと誇張して自慢までしてしまう有様。
中でもカレーはその筆頭ではないでしょうか。

チーフの考え方はこうでした。
なんでもかんでも美味しければメニューに入れてもいいのかといえばそうじゃない。
おいしいカレーを作るのはカレー屋さんの仕事。
うちは、あくまで大衆中華料理店だからおいしい中華を作るのだ、と。
餅は餅屋であり、言い換えれば共存共栄のスピリットでした。

こういう自分の「分」、身の丈を大切にするという姿勢も修行で学んだことでした。

そんなだから、当時はスパイスの入手が困難ということもありましたが、チーフはカレー粉ひとつだけしか仕入れませんでした。
業務用の大きな赤い缶入りのものです。
ほかにも2種類のカレー粉が存在していましたが、いろいろ試してこれに決まったのです。

カレーの素ではなく、カレー粉。
カレーではなくカレー風味ということです。

店の命ともいえるスープは鶏がらで出した黄金色のものです。
中華ではこれを清湯(チンタン)と呼びます。
透明で艶やかであることと、淡白でありつつも奥底からじんわりと旨味が、そして華やかな香りが特長です。

調味料に溺れると、この命が台無しになってしまう。
だからカレー粉がちょうどよかったのです。

ただし、それだけでは美味しく仕上がりません。
実際、僕は何度も試作をして嫌というほどぶつかりました。
いくらカレー粉をたくさん入れようがメーカーを変えようが風味はでないのです。
色目が変わっていくだけでした。

そしてある日、勇気を出してチーフに質問しました。
「そんなもんあかん。塩分と糖分をちょろっといれたらええ」

なんでですか!?カレーって辛いもんとちゃいますの?

「ややこしいことは言うな。料理はメリハリや。とにかく塩と糖で変わる」

とにかく店は毎日忙しくて、おまけに言葉の少ない人だったので、
質問一つするのでも、様子を伺いながら、ヘタをすると切りだすまで1週間くらいかかります。
そうして得た答えがこの二つでした。

その後何度も試作を繰り返し、これら二つを上手に使うことでカレー粉の風味が沸き立つことが身体で分かりました。

あれから20余年が経った今、今度は同じ糖分でも木の蜜からできたメープルシュガーというものを目の前にしています。
これは天然のミネラル分がそのまま入っているせいか、様々な予期せぬ変化をもたらします。
特に僕が注目しているのは、旨味の起爆化です。

素材と抱き合わせると、その素材の持つ旨味と相乗効果を発揮するようなんです。そしてどうやら野菜とも何かが起こるようで。

今回の天津編にはあえて動物性のダシを使っていません。
メープルの可能性を見たかったからです。

ポイントは仕上げに「細かく切った野菜」を使うこと。
通常の天津飯にはこのような工程はありません。

ご飯の上に玉子焼きを載せてから、一般的には醤油味の餡を作るのですが、
ここでは野菜を油で炒めて、カレー粉と塩で風味付けするんです。
こうすることでよりカレー風味が明確になるはずだから。
そして最後にメープルスープを加えて片栗粉でとろみをつけます。

やっぱり。
これだけでさっぱりとしつつ、じんわりと旨味の余韻が広がりました。

今回の縁の下の力持ちはメープルシュガー。
あくまで中華料理のアレンジ版ですから、名は『中華風カレー丼〜天津編』です。

これからの季節ならショウガをたっぷり入れるとなお美味しいです。
簡単に出来ますので老若男女すべての方におすすめ。
今からぜひお試しください!

☆With メープルシュガーレシピ31
『中華風カレー丼〜天津編』(1人分)

玉子       2個
カニの身(缶詰)  適量(25g程度でじゅうぶん。なければハムやエビもいいですね)
ピーマン     1/2個
白ネギ      適量
シイタケ     1ヶ
ニンニク     少々
ショウガ     好み量(1/2tspは楽々)
カレー粉     小さじ1
塩        少々(ひとつまみ程度)

スープ)
水        1カップ
醤油       大さじ1
メープルシュガー 小さじ1〜2
酢        小さじ1〜2
片栗粉      小さじ1〜2

油        適量
ごま油      少々
ごはん      好み量

1.スープの材料をあわせておく。後ほど熱するのでメープルは完全に溶けなくてもよい。
(醤油は別にして後で野菜を炒めるときに入れてもよい。面倒な方はここで)

2.3つの野菜を賽の目切りに、ニンニクとショウガは細かくみじん切りにしておく。

3.玉子を溶く。片栗粉に水を加えて混ぜる。丼にご飯を盛り付けておく。

4.熱したフライパンに油をいれて玉子を焼く。(強火のまま一気に焼くといい感じになる)

5.カニの身を加える。(ハムやエビを入れてもおいしい)

6.裏面も焼き、好みの焼き加減になったらご飯の上に載せる。

7.再びフライパンに油をいれ、2 をすべて入れて炒める。

8.カレー粉と塩を入れてよく混ぜる。

9.全体がまとまったら1 を入れる。

10.片栗粉を加えてとろみをつける。強火でよくかき混ぜるとなめらかになる。

11.火を切り、酢とごま油をひとたらし。軽く混ぜる。

12.玉子焼きの上にかけたらできあがり。