パリ編[8]日本文化会館で「東北のおやつ」デモ

セーヌ川沿いに立つ日本文化会館5階入り口に掲げられたポスター丁稚ケイ用にもらったJALノートに話す内容を書くアシスタントのミキちゃんと私、美女と野獣・・・ひょうずだんごの中身を説明する断面図。分厚いからこそできる技鶏のロースト、絶品。かぶりつけ〜。ジル・ヴェロの絶品フロマージュ・ドゥ・テット大人買い。ベビーシッター・リサさんに満面の笑み
ジャガイモのシュー風。甘くてふわふわ

午前11時半、日本文化会館へ。

前日に蒸しまくった岩手と宮城の「がんづき」をカットする。さらに来週のアルザス分も作らせてもらった。ストラスブールでもキッチン付きの部屋に泊まるが簡単なものらしい。

日本総領事館の厨房も借りるけれど、コンロ1つしか使えない。
合計150人分を1日で仕込むのは、どう考えたって厳しいだろう。

日本の宅配便とラップさえあれば…。

あらかじめ作っておいて、イベント前日に着くよう手配できる。でもここはフランス、そんなものはない。手運びするしかない。日本文化会館スタッフ・カリンさんのはからいで、冷凍させてもらうことにした。

パリ〜ストラスブール間で自然解凍されたあと、岩手がんづきはふわふわした食感が持つかどうか。

日本と違って乾燥しているから心配だ。蒸し上がったがんづきはこれでもかというほどラップでぐるぐる巻きにする。
またこのフランスのラップがヨレヨレでしなしななのだった。た、頼りない…。

パリでは同宿のリサさん母娘に丁稚ケイを見てもらえる。ストラスブールではそうもいかない。ずっと甘えまくっている彼女たちとは月曜に別れる。パリの夢が覚めたらアルザスからは修業だぞ。言い聞かせる。

午後2時、第1回目がスタート。なつかしい顔を見かける。

岩手・大槌町のアキコさんに借りた絣の柄の野良着を着て参加者を迎える。あ、1年半前に開いた「和のおやつ」実演にも来てくれたニューヨーク出身のアメリカ女性だ。

日本語を学ぶ高校生たちの姿もあった。アシスタント役のハナコさんが直前になって声をかけてくれた。本当にうれしい。

あイタタターなフランス語だけれど堂々と、思いを込めて。掛け合いの相手・ジャーナリストのユミコさんにフォローを任せ、現地を歩いた経験をしっかり話そう。

行きの飛行機で丁稚ケイにもらったJALノートに話す内容を走り書きしていた。最後にちょこっと目を通す。

岩手・大槌町のアマチュア写真家、菊池公男さんの写真を上映する。

津波の写真に息をのんでいる。涙ぐむ女性たちがいた。フクシマは語られても、それ以外は話題にはならない。
私が現地で撮った写真を紹介した。大槌の漁港で出会った魚屋のお母さんについて話す。

わかめを1パック買っただけなのに「何もなくて申し訳ない」と言いながら、その何倍ものおまけをしてくれたこと…。話しながら涙ぐむ。

岩手がんづき、宮城がんづきを実演する。

「私の美しいアシスタントを紹介します」。中2のミキちゃんにお願いする。お座敷…じゃなかったデモをするのも3回目、割ぽう着姿もサマになってきた。

どちらも混ぜて蒸すだけだが、セイロや蒸し器がないフランス人には珍しそう。セイロに紙を敷いて生地を流していたら会場から声が飛んだ。

「昔はどうやっていたの?」そうそう、言い忘れていた。いい質問をありがとう。布(さらし)を敷いてふかしていたことを話す。

デモ終了、試食へ。午後4時半、2回目スタート。

「岩手がんづき」はジェノワーズ(スポンジ生地)みたいと好評だった。

ねちねちした「宮城がんづき」のウケはどうかな…。気になって試食のテーブルを回る。涙ぐんでいたマダムが「トレビアン!私はこれが一番好きよ。うちでやってみるわ」。そうか、大丈夫なんだ。意外だな。

端っこに置いていた余った皿を見つけた女性に声をかけられた。「私、食いしん坊だから、あの1皿、もらってもいい?」そっか、口にあったんだ、うれしいな。「1人にあげると他の人が欲しいというから」ということで差し上げられなかった。

こういうときの判断が難しい。

1回目は震災の話が長すぎたようだった。ショックな感想も伝え聞いた。どんなに鋭いナイフより、

たった1つの言葉が心をバッサリ切るんだな。ダメだ、ダメだ、あともう1回、あるのだから。日本文化会館でデモができるのも最後だろう。しっかりしよう。気を取り直そう。

合間の1時間で、おやつを軸に話を組み立て直す。

2回目は20人足らずと人数は減った。落ち着いて話せた気がする。エアコンがないうえセイロから蒸気があがる。おまけに借りた野良着が厚手なので本当に暑い。参加者たちも汗だくになっていた。

拾う神あり。おやつを教えてもらえることに!やった。

ホッとしたせいか、試食タイムも1回目より和やかに話せた。親子ワークショップにも来てくれた女性にお礼を言う。2度とも来てくれてありがとう。

彼女はエレーヌといった。

「私のおやつを教えますよ、近くに住んでいるの。甘いのと塩けと、どっちがいい?」。わー、いいんですか、押しかけて。じゃあ月曜日に。約束した。すごくうれしい。やっぱり出会いがあってこそ。

落ち込みモードなんてアッハッハー、100万光年のかなたに吹っ飛ばした。最高のエネルギー源だわ。救われた。やってよかった。

午後7時半、帰路へ。みたびシャルキュティエ「ジル・ヴェロ」へ。

参加するつもりだったパーティーに行きたかったけれどあきらめた。あまりに荷物も多い。丁稚ケイも無理をさせている。リサさんたちが帰った後に熱でも出されたら…。安全策をとろう。

週末とあってタクシーがつかまらない。地下鉄で帰ろう。もう閉まっているかな…途中駅で降りて外からうかがう。あ、開いている!3人で大喜びした。ついているなあ、私たち。

またしてもガッツリ大人買い。

最愛にして最強のフロマージュ・ドゥ・テットは長さ30㎝、厚さ2㎝を2枚も買った。どれだけ食べるつもりだ…。
鴨とイチジクとフォアグラのパイ包みも厚み10㎝ほどに切ってもらった。「これぐらいお願いね」。ニンマリしながらものすごく得意げに、両手の人差し指を突き立てる。

店を出てもタクシーがいない。あきらめようとしたら1台、とまってくれた。おお、神よー。運転手さんに言ったら笑われた。「1時間ぐらい流していたけれど全然、お客さんがいなかったのに、あなたたちを拾ってからはあちこちにいるよね、面白いね」。

確かに道路わきでタクシーを探す人が何人もいる。そうそう、一度ゴー!となれば、いい方向に転がっていく。人生だって、そういうものだよね。運転手と笑いあった。

いつも気をつかってくれるリサさん、ミキちゃんと乾杯する。

「来年もパリに来るぞー!」

ミキちゃんが宣言した。いいぞ、いいぞ、その調子。言うことって大事。私も叫ぼう。また来るぞー!