午前9時、チーズとベーコンのプレッツェル。
午前8時、丁稚ケイが再び眠ってしまった。おやつを教わったパリのエレーヌにも勧められたおそうざい屋「キルン(KIRN)」へ出かけるのを楽しみにしていたけれど。
きょうはアルザス巡業第1弾、欧州評議会での「和のおやつデモ」。
午後から夜まで外に出ずっぱりにさせる。朝は部屋で過ごそう。
同宿の友カヨコさんに、リクエストを訊かれて言った。「ええーっと、フォレノワール!」
気を利かせて塩けのものも買ってきてくれた。
これぞアルザス、で攻めよう。プレッツェルはちょっとベーコンの塩けが強いけれど、パン生地そのものはもちっとしてふんわりして、ベーグルみたい。あたためるとまた、違った趣があって素敵だった。
フォレノワール、まるまる1個食べたら酔っぱらう。
たっぷりの生クリームは軽いけれど、チェリーがしっかり、キルシュどっぷり。うわぁー、まだ授乳中で断酒中の身、刺激的だわ。勝負フォレノワール、だな。
午後2時45分、ホテルを出発。
話す内容をフランス語で殴り書きする。最後の悪あがきやー。
総領事公邸に寄って、おやつや料理道具を積んだ。東京から持ってきたボウルにセイロ、パリから抱えてきた「岩手がんづき」10個…。
午後3時15分、欧州評議会に到着。
でかっ。立派な建物に及び腰になる。パスポートを見せ、荷物のセキュリティチェックを受ける。「見るからに善良な市民なのにね」。そう言ってユミコさんに突っこまれた。「自分で言うか!」
迷路のような廊下を抜けると「レストラン・ブルー」にたどり着いた。
入ると円卓にグリーンのクロスが敷かれ、花が飾られている。パーティー会場みたい。うそー、まさかここで?違った。ホッ。パーテーションで仕切られた奥がデモ会場だった。
開始2時間前、レストラン側に電磁調理器やボウル、泡立て器を借りる。セイロに敷き込むオーブンペーパーがない。総領事館のスタッフに買いに行ってもらう。やっぱり忘れ物、したか。
岩手・大槌町で習った「ひょうずだんご」は大きなフライパンで20個ずつ蒸し焼きにした。
午後5時40分、「東北のおやつ」デモ、スタート。
パリで2回、デモをした反省を踏まえ、話す内容を少し変えた。アンチョコを台にのせていた。「それ、カメラに映りますよ」。ユミコさんに言われた。そうだな、往生際が悪い。ええい、どうにかなるはず。アンチョコはカバンにしまいこんだ。
フランス語がヘタでも心を込めて話そう。笑顔で、前を向いて。
なにより丁稚ケイが一緒だから何だってやれる。彼がいるから頑張れる。自分を奮いたたせる。
開始10分前、カヨコさんにケイをおむつやおやつとともに託した。
午後5時半になっても席が半分ほどしか埋まっていなかった。少し待とう。参加者は仕事を終えた欧州評議会の職員や議員という。パラパラと姿が見え始めて結局、60席が埋まった。
1時間ほど話してから実演へ。あ、やっちゃった。
まずは岩手がんづきから披露する。あ、しまった。粉類と卵、牛乳を混ぜるまではよかったのに、最後に酢を入れるのを忘れてセイロに生地を流してしまった。あーあ、いつかやると思ったよ…。
「でも大丈夫!ほーら、このように」。セイロの生地に酢を流し入れてゴムベラで混ぜた。会場から笑い声が起きる。ウケたのなら、まあいっか。
47か国が加盟する国際機関だけあって、聴衆は多国籍だった。
フランス、イギリス、スロバキア…。華やかなスーツに身を包んだいかにもエリートっぽい女性もいれば、日本語がペラペラの男性、被災地にも行ったフランスの地震研究者、そしてなぜか小学生ぐらいの子もいた。
「ここで働いている人しか入れないはずですが」。総領事館のモチヅキさんも不思議そうだった。まぁケイだって入れたから、それもアリか。
「東北のおやつを楽しみながら、私たちの被災地の友人たちに思いをはせていただけたら、とてもうれしいです」。
最後にそう結んだ。拍手を送ってくれた。
午後7時、終了。
ふーっ。外にいた丁稚ケイも、カヨコさんに連れられて会場に戻ってきた。泣き声が長い間、聞こえていた。ちょっと心配だった。よく頑張ったね。抱きしめた。
湯気の立つセイロの前でしゃべったせいか、やたらアイスクリームが食べたくなった。食事なんてどうでもいい。何でもいいや、アイスなら。山盛り食べたい。
午後8時過ぎ、ホテル近くのアルザス居酒屋へ。
シュークルートは「プチ」とあったのに山脈のように盛られていた。さすがアルザス、パリより1.5倍増しだわ。16.5ユーロ。ホースラディッシュを塗りたくって食べる。アイスはどこへ行った…。
さーて、明日はフランス場所、千秋楽だ。エイエイオー。