午前9時、1日1フォレノワールを実践。
同部屋の友カヨコさんが買ってきてくれた。「きょうのは本気フォレノワールですよ」。
えっ、どんなのだろう。紙包みを開ける。うひゃひゃー、確かに最強だ。のけぞった。おお、大きい。チェリーにも生クリームにもキルシュがたっぷりしみている。
またしても酔っぱらいそう。3分の1ほど残して窓べりに置いておいた。10分後にはバッタリ、クリームの重みで倒れていた。
午前11時、ストラスブール近郊の村ヴィッテスハイムへ。
日本総領事館の車に乗り込む。ストラスブールから南に50キロの村、ヴィッテスハイムへ向かった。めざすのは有機栽培の茶販売会社「レ・ジャルダン・ド・ガイア」だった。
フランス巡業の千秋楽のデモ会場になる。「大地の女神の庭」との社名から勝手に想像する。
健康に気を使いすぎるあまり不健康になってしまった人たちに迎えられたらどうしよう。毎日1個、フォレノワールを食べているなんて言ったら白い目で見られるかも…。
のどかなブドウ畑を抜ける。かわいい家並みの小さい集落も消える。緑のトンネルを走っていると、後ろから声がした。
「奥地、って言ったら失礼ですけれど…」。総領事館のモチヅキさんが控えめに言った。確かに。平日の昼間、こんなところに60人もの人が来てくれるのだろうか。
正午、「レ・ジャルダン・ド・ガイア」到着。
え、ここ。突然、現れた。わー広い。入り口には小さなのれんが下がっていた。「ラテンぽいな」「なんとなくブータンの柄みたい」。口々に好き勝手なことを言う。石庭のように敷き詰められている。
うーん、努力賞、竜安寺に見えないこともない。「だれですか、竜安寺なんて言ったのは!」。頼れるジャーナリスト・ユミコさんはいつもバッサリ、痛快なのだった。
広いサロン・ド・テで準備開始。
昨日の欧州評議会では大きな電磁調理器を借りられたものの、1時間たっても鍋の水が沸騰しなかった。きょうは大丈夫だろうか。小さな畳の台の上に電熱器が置かれていた。
東京から持ってきたフランス巡業の友、セイロをのせる。お、ちゃんとお湯がわくじゃない。うれしい。
千秋楽のテーマは「和のおやつ」だった。
あんまり東北ばかりなのも、ダメだろうか。岩手がんづき、宮城がんづきに加えて3品目は、ザ・日本のおやつ、だんごにした。宮城・菅原商店のだんご粉でだんごをゆで、焼いてあんこをのせて食べてもらうことにした。
「シンプルだけれど、ウケますよ、きっと」。パリでリサさんが提案してくれたのだった。
午後2時、デモスタート。プロジェクターは真っ青のまま。
スクリーンに写真を上映するはずが、ずっと真っ青のままだった。開始時間を過ぎても、だれも見に来ない。「スペシャリストがいなくて…」。あらら、でもここはフランス、仕方ない。
モチヅキさんの格調高いあいさつのあと、ユミコさんと私。いまや「料理漫才コンビ」と化した2人が登場する。
「パソコン、動きませんねえ。どうしましょうかねぇ」「ストライキ中でしょうね。先にデモ、しましょうか」。
慌てず騒がず、ができるのは相方ユミコさんのおかげだわ。
まず岩手がんづき、次に宮城がんづきを作る。手元を映すカメラがあるわけではないから、なるべく大げさに。身振りを交えて伝えよう。
満員御礼、60人。
もう席がない。60人を超えているようだった。こんなに来てくれるなんて。熱心さも際立っている。
メモを取る人が多い。珍しい。「だんご粉はどこで買えるの」「ライスクッカーでがんづきを蒸すことはできるかしら」。矢継ぎ早に質問も飛ぶ。さすがに意識の高い人たちが集まって来ているな。
「パリと違って、日本の催しも少ないので飢えているんですよ」。モチヅキさんの言葉が分かるような気がした。
2種類の「がんづき」実演が終わるころ、プロジェクターに写真が映し出された。よかった。東北3県の取材で撮った写真で説明する。涙ぐむ人もたくさんいた。
説明を終えてホッ。あ、オリガミ教室を忘れていた。
リサさん母娘がパリで切ってくれた小さな千代紙と竹製フォークを会場に回す。最後まで笑顔で、目を見て話そう。
午後4時、すべて終了。
ストラスブールやコルマールから来てくれた人もいた。「おいしかったわ」「あんこも大丈夫よ」「ゴチソウサマデシタ…」。かけられる声、じんわりうれしい。地元紙も取材に来てくれていたらしい。
「私たちは欧州評議会のデモのおまけだったのよ」。ガイアの代表者が言った。いえいえ、そんなことは…。
丁稚ケイはバギーに揺られてぐっすり、眠っていた。
昨日の欧州評議会では泣き叫んでいたのに。畳の茶室もあっておむつを換えさせてもらえたし、絵本やおもちゃもたくさんあった。シッター役を引き受けてくれたカヨコさんと、「ガイア」のくつろげる雰囲気のおかげだわ。
おしまいにお茶を出してくれた。「ゲンマイチャよ」。ハーッ、ホッ。
ブティックに寄ってお土産を買おう。ずらっとお茶缶が並んで壮観だな。アールグレイや子ども用ハーブティーなどを詰めてもらった。
一路、ストラスブールへ。午後7時、打ち上げの宴は…。
またしても旧市街プティット・フランスにある「洗濯ヒモ」へ。
鴨のコンフィにアルザスのパスタを添えてもらった。15ユーロ。まだ入るな。クグロフ型アイスを頼む。6.9ユーロ。ちゃんと本物のクグロフみたい。焼き色をイメージしたシナモンとココアがまぶされている。
中身はレーズンアイス、ひんやりしゃべり倒したノドにしみる。
マラソンを走り終えたような気分になる。反省点は多々あれど、たくさんの人の助けで乗り切れた。さーて、明日から旅モード。うっしっし。