1ユーロ≒100円。
午前11時、トリノのオールシーズンズ・ホテルを出る。
宿泊税込みで1部屋73.6ユーロだった。メーンの駅に近いし、無料の朝食もなかなかの充実ぶり。
ごく薄く切られたハムがいかにもイタリアっぽい。チーズもコーヒーもフツーにおいしい。さすがイタリア。
古い鳥かご式エレベーターも味があった。
イタリア中のおいしいもの、体にいいものを集めた食材店「イータリー」へ。
駅から15分、タクシーで15ユーロほどで着いた。
東京・代官山店も行ったことがある。ああ、でも全然違うわ。店に入るなり鼻血が出そう。広い。タッチアンドゴーで迷い込もう。
おコメ、野菜に魚、もちろんワイン、えー、見てみて、イタリアにこんなに地ビール、あるなんて。
もちろんパスタだって何でもござれ。ピエモンテ名物の卵入り細麺・タヤリンもたくさんあった。
「さっとゆでて、黄身としょうゆをからめて食べたいねぇ」。ユウさんが言った。うーん、ご飯と勘違いしているような。
ピスタチオとミルク(フィオル・ディ・ラッテ)のジェラート、2ユーロ。
親切なスタッフがモリモリに盛ってくれた。いそいでほおばる。
ハァーッ。ため息が出る。とろけそう。自然な色のピスタチオが香る。このクオリティで200円とは、何に感謝したらいいんだろう。
ジェラートが好きだー。とりあえず叫ぼう。
正午、「どイタリア」で行こう。パスタとピッツァ。
イータリーは売り場ごとに食事スペースがあって楽しめる。
本日のピッツァは牛のモッツァレラ、ズッキーニ、エビ、トマトがのって9.5ユーロ。
「ナポリタンスパゲティは?ケチャップであえたの」などと言うユウさんはスルーして、ペンネのトマトソースを頼む。7.5ユーロ。
ペンネはチーズたっぷり、オリーブが効いている。どちらもそつなし、模範演技をグラッツィエ・ミッレ(本当にありがとう)。さすがイータリー。マネできそうで絶対にできない味だな。
午後2時、サンカルロ広場でヨーコさんと合流。
1日中遊んでいられそうだったが待ち合わせの時間になった。慌ててタクシーで向かう。
「あ、チカコサーン!」パリのピアニスト・ヨーコさんが手を振っていた。よかった、会えた。
パリからTGVで5時間半、3カ月前に予約したから一等車でも40ユーロほどだったという。
トリノはジェラート族、続々。
日曜日の昼下がりを歩く。暑すぎず寒すぎず、最高だな。ジェラートを手に歩く人たちが目に付く。
1日3ジェラートを実践しよう。
通りかかったカフェ「カンボリーニ(Camborini)」でヴァニラとチョコレートをヨーコさんが選んだ。2ユーロ。エクアドル産カカオがこれでもか、の濃さだった。たまらない。
老舗のチョコレートチェーン「Venchi」ではコーヒーのソルベとマスカルポーネのジェラートに。2ユーロ。
ティラミスのような組み合わせにしたヨーコさんのセンス、いいなぁ。まったりマスカルポーネにコーヒーがシャリッと合いの手を入れる。黄金タッグにメロメロになる。
トリノ名物ビチェリンを。
その名も「カフェ・アル・ビチェリン」へ。
濃厚なホットチョコレートにカプチーノが入った飲み物で、2年半前に訪れた際にもいただいた。チェーン系コーヒーショップとは一線を画す。さすがに大人の味だな。
午後5時20分、イタリア国鉄トリノ・ポルタ・ヌオーヴァ駅を出発。
44分、アスティへ。2等車で4.3ユーロ。「次はどこに行こう」「ナポリでピッツァ、シチリアでピスタチオアイスなんてどう?」「あぁ〜いいなぁ〜」。ヨーコさんと次の旅の話で盛り上がるのだった。
あれ、ここ、どこだろう。
日本のようにアナウンスもなければ駅の表示も見づらい。
ヨーコさんが「アスティ?」と花を売りに来たおじさんに訊く。
「アスティ、アスティ」。えー、大変。降りなくちゃ。
でもアスティは終着駅、あわてなくてもいいはず…。丁稚ケイを抱っこした私がまず降りる。
あ、と、扉が閉まるーっ。
終着駅のはずが何でーっ。ヨーコさんとユウさん、スーツケース2つが取り残された。えー、待ってー。
ヨーコさんが扉をこじ開けて飛び降りた。
また扉が閉まる。スーツケースとユウさんが取り残された。どうしよう。
ピアニスト、華麗なるタックル。
えいっえいーっ。必死でこじ開けてくれた。半分ほど開いた扉から、ユウさんとスーツケース2個が転げ出てきた。
うわぁ、ヨーコさんにそんなことをさせるなんて。でもかっこいいー。
降りてから3人で大笑いした。終着駅のはずが、違っていたんだ。
花売りおじさんが通りかからなければ乗り過ごしていた。あーあ、話が楽し過ぎて降りるのを忘れていた。
「ピアニストタックル事件」として後世まで語り継ごうっと。
午後6時10分、イクコさんに迎えられた。
「なかなか出て来ないからちょっと心配して…」。てんまつを話す。大笑いされた。
マンゴー村でB&Bを開こうとしているイクコさんとは2年半ぶりの再会になる。
3冊目の「パリのおやつ旅のおやつ」でも紹介した。
「B&Bは2012年春オープン予定」と書いたのだが、イタリア的な事情に阻まれて果たせなかった。でも3つの客室とダイニングはほぼ完成し、プレオープンまでこぎつけた。
午後8時半、お楽しみの晩ごはん。隣村の食堂「ラ・トッレ・デル・モナステッロ」へ。
前菜は大好物フリチューレ。
まな板にのってやってきた。ピッツァ生地を揚げたものに薄切りパンチェッタ(塩漬け豚バラ)をまとわせている。ああ、これこれ、会いたかったよ。じゅわっと塩けがいいな。
パスタは名物タヤリンにセージのバターソース、6ユーロ。
細い卵麺にバターをからめ、セージの葉っぱをのせただけのシンプルさ。イクコさんによるとピエモンテでは定番の組み合わせなのだとか。バター使いがフランスに近い土地柄を感じさせる。
セージが香っていいアクセント、帰ったらマネしてみよう。
ピエモンテ名物ヴィテッロ・トンナート。7ユーロ。
前菜をメーンにいただく。仔牛の薄切り肉、「ツナマヨ」ソースがけだった。
ツナマヨといっても日本のとは違い、ツナはペースト状でクリーミーなソースがいい。ロゼ色の肉があぁ、とろけそう。ツナマヨもなじみのある味、シンプルで素朴でおいしい。
7ユーロなんて信じられない。隣でピエモンテ牛のカツレツにフォークを入れていたユウさんが「おいしそうだねぇ」と欲しそうにする。ふーん、あげないもんね。
デザートはボネ。
地元名物のチョコレート・プリンは2年半前に取材して感激し、拙著「パリのおやつ旅のおやつ」でも紹介した。ここのもなつかしい味、しっかりとかための食感がいい。カカオ60%以上はあるな。
午後11時半、帰宅。
めくるめくピエモンテ、食の宝箱をまた、存分に探検しよう。ベッドに倒れ込む。あぁ今夜もブォナ・ノッテ(おやすみなさい)。駅でのタックル事件を思い出し、まだクスクス笑いするのだった。