午後7時、東京・荻窪「坊千代」へ。
あれ、ここのはずなんだけどな…。
iphoneの地図アプリを見る。店と私の位置はドンピシャ、重なっているのに。うろちょろ何度か通り過ぎる。ようやく地下1階の店に気付いた。
どこかでパリつながり。
岳野シェフはパリにあるユネスコ大使公邸料理人だった。1人で昼も夜も1日1組限定の店を開いて1年半になる。
パリの友人トモコさんが予約してくれた。男女7人、秋の宴。
彼女の学生時代の友人が新潟からもやってきた。
パリで料理修業後、神奈川で料理教室を開くナナさんも。
トモコさんとの再会のあいさつ、フランス式。
抱き合ってビズしちゃおう。わーい、お久しぶり。
10カ月ぶりだからそうご無沙汰でもないけれど、やっぱり遠くに住んでいるから。
まずはトリュフ入りだし巻き卵。
器は素焼きの土器で、大胆に割れていた。1000年前の骨董にトリュフが舞う。
シェフが1品ずつ丁寧に説明してくれる。白いのは大根おろしではなく、ジャガイモのピュレだった。そう来たか。
カツオのくん製、ナスの黒酢添え。
添えられたお醤油までくん製だった。かぐわしい。
イタリアのスープをほうふつとさせる「百姓汁」は味噌仕立て。ホッ。
栗のコロッケ。騒ぐ女、1人。
自家製カマンベールチーズとクリがとろける。ああ、クリだ、栗だ。一人で騒ぐ。
言わなくても分かっとるわい、だな。
「自家製って、どうやって作るんですか」。勉強熱心なナナさんはシェフに尋ねていた。さすがいまをときめく料理人は違う。
秋サバの赤ワイン煮、あうなあ。
味噌煮ほど甘ったるくなく、ほどよい酸味が素敵だな。
フォアグラとサトイモの大理石仕立て。
岳野シェフ自慢の品だった。
「添えられたバルサミコ酢は20年物です」。おお、イタリアで買ってきたばかり。「一滴2ユーロ、いやもっとしますよ」。知ったかぶりした挙げ句、シャツに被弾させてしまった。
あーあ、もったいない。
ねっとりした食感が口の中で輪唱する。バケツいっぱい食べたい。たとえまで品がない…。
ダチョウのステーキ、キノコソース。
ダチョウは九州産という。やわらかいのに弾けるような噛みごたえがある。独特だな。このお店にピッタリかも。
独創的な味わい、5000円からという。幸せでウィットにとんだ大人の会話、名残惜しい。
もっとゆっくりしたいけれど日付が変わるまでに帰ろう。トモコさん、またパリで会えたらいいな。
翌朝には羽田空港へ。
午前8時20分発、JAL305便で福岡へ。後部座席はガラガラで助かった。
正午、母と姉たちの住む久留米へ。
久留米といえばの「お約束」、まずしよう。
姉と甥っ子ユウ、リョウにラーメン店「龍の家」へ連れて行ってもらう。
東京でラーメン屋は行ったことがない。座敷があって、子どもチェアも器も出てくるなんてないから。
あっさり系もあるけれど「こく味ラーメン」とチャーシュー丼。950円。
ラーメンにあっさりは求めとらんもーん。岡山弁でほえつつズズズーッ。
ユウは替え玉をしていた。
午後3時、KURUME・ジェラートへ。
店構えからしてかわいい。姉が「つい応援したくなる」という。エダマメやピスタチオ、あまおう、クリ…。どれも地元の素材で手作り感いっぱいだった。いいな。
「国産バニラ」の表示に目がくぎ付けに。
えー、バニラの産地といえばマダガスカルやタヒチ、インド…。暑い地域の印象なのに。
久留米の「金子植物苑」などで「国内初バニラ」の栽培が始まっているという。ぜひ訪ねたい。
まずは基本、ミルク味。
さっぱりした口どけ。シングル350円。病院の母へはカップ入りを買って行った。
まだ入院中だけれど1カ月前より元気な感じだった。「おばあちゃん、アイス買ってきたとー」。
「食器をみるのもイヤ」。病院食を好まない母が、ゆっくりスプーンを運んで平らげていた。
病床の母の心を溶かすのは君たちだ。頼んだぞ、ユウ、リョウ、そしてケイ。