午前10時、福岡・久留米から岡山へ。
1歳4カ月になった丁稚ケイを姉に託す。
1人で新幹線に乗る。久しぶりだな。
手製のお菓子200人分を詰めたスーツケースだけが道連れだなんて。
手がスースーする。楽ちん、楽ちん。
午後12時半、母校・岡山大学へ。
JR岡山駅から10分、イチョウ並木を通り、西門でバスを降りる。
時計台が青空に映える。なつかしい。
「ホームカミングデイ」の催し案内板が立っていた。
「法学部講演会 多田千香子氏」。
うわあ、腰が抜けそう。元・ユーレイ学生だった私が話すなんて。人生、何が起きるか分からない。
いったいどんな人たちが来てくれるんだろう。ワクワクする。
待ち合わせの時間まで20分ある。
生協「ピーチユニオン」へ。
「マスカットユニオン」「ピオーネショップ」もあった。いいな、岡山らしい。
私たちのころは生協なんて影もかたちもなく、設立運動をしていた。
あこがれの学食、味わいたい。
サーモンたたき丼Sサイズ、399円。
サラダバーで野菜をてんこ盛りにした。
レシートにカロリーが書いてあった。いまどきの学食らしい。467キロカロリー。
午後1時、講演の準備開始。
ダッシュで文法経講義棟へ向かった。
小山学部長に迎えられた。
たくさんの紙が張り出された掲示板、変わらない。授業料滞納者リストの1人として私も張り出されたっけ。
20年ぶりに20番教室に入る。
300人が入れる階段教室で、私も六法を片手にノートをとっていたんだな。99%は枕だった…。
なつかしがっている場合じゃない。
準備しなくては。焼いてきたクッキーを並べよう。
米シアトルで4月、教わったチョコチップクッキーとショートブレッド、6月のスイスで習った「おから入りロシアンクッキー」を焼いてきた。
イタリア・ピエモンテで9月、もらったヘーゼルナッツを仏夕刊ル・モンドで包み、ぶらさげてみた。少しでも現地の味わい、届けたい。
ええ、スーツケースが、開かないっ。
なぜか3ケタのダイヤル式ロックがかかってしまっていた。あれれ。
また1000通りを試すのか。カナダのメープル小屋でも開かなくなった。
悪夢がよみがえる。仕方ない、こじ開けよう。「でもどうやって?」「ドライバーとかバールとかハンガーとか…」。
そんなもの、すぐにはない。どうしよう。
「開きましたよ」。
刑法の塩谷先生の声がした。やったー、まだついている。
皿回し人生な私の口癖を言う。来るなりお騒がせした。
午後2時半、講演開始。
ガラガラだったらどうしよう。
ビラでもまきに行こうか。心配したが席が埋まってきた。
よかった。現役の学生からOBと思われる重鎮まで、世代もバラバラだった。
小山学長をはじめ、当時の先生たちも目白押しだった。
どのツラ提げて話せばいいんだろう。
元・ユーレイなのに。でも時間を割いてきてくれている。エイヤッ、いてまえー。