福岡で就職ゼミ合宿を終えて、岡山へ。
姉の運転する車で6時間、山陽道を走る。広島・宮島SAで「もみじ饅頭風味」とあるラムネを買ってみた。135円。カラメルの味がした。
日付が変わるころ岡山に着いた。実家に近い国道2号沿いに、母が30年近く通った会社が見えた。
「お母さん、会社です」。
亡き母が入る箱に話しかけた。
午前1時、母が建て、住み続けた家に入る。ホッとする。やっと連れて帰って来られた。
20年ぶりレストラン「大阪屋」へ。
国道2号線沿いのドライブインで、私にとって外食の原風景かもしれない。
焼き肉もお寿司も何でもござれ。
テレビを眺めるトラック運転手のわきで、にぎやかな家族連れも…そんな雰囲気、いまも変わらない。
入り口のショーケースに定食のサンプルが並ぶ。私が選ぶのは決まって唐揚げ定食だった。
9歳のころ初めて残さず平らげた。
「チカチャン、よう食べたなぁ」。ほめてくれた父はまもなく、天国へ行った。
いまにして思えば家族4人がそろって外食した、かけがえのない時間だった。
から揚げ定食860円。
うずら卵入りのスープも、ちょっと濃いめのタレも変わらない。
「昔は銀の皿だった」。姉が言った。そうそう、楕円形で。とっておきの日らしかったのに。ちょっと残念。
父の墓前に報告。
古い家の「オハヨー牛乳」の配達箱にときめきつつ山を登る。急な坂で息が切れる。
「お母さん、そっちに行ったよ、よろしくね」。
そう言いつつまだ、どこかで信じていないのだけれど。
中華そば「八仙」へ。
いつもラーメンを食べているウチの小池さん=相方ユウさんの求めだった。
薄切りチャーシューが生ハムみたい。岡山のラーメンらしい。中華そば630円。
夜は「ぼたん鍋」。
高松の友ハルコさんが送ってくれた。ぼたん鍋にする。脂もしつこくなくてサクサクだな。
2キロを2日で平らげた。さすがに苦しい。
四十九日の法要へ。
朝から強い雨だった。晴れの国・岡山なのに、珍しい。近所の人に見送られ、納骨に出かけた。
お墓は小説家・正宗白鳥の生家近くだった。
小説「入江のほとり」の舞台になった、備前の海が眼下に広がる。
いつ見ても感動する。たとえ雨でも。
墓誌に彫られた母の名前を眺める。「まだウソみたいなけどなぁ」「まだ久留米におるような気がしとんよ」。
叔母と言い合った。やっぱり不思議。
「日生割烹上内」へ。
日生(ひなせ)漁港近くの店で会食する。母ともよく来た。
タイのお刺身にメバルの煮つけ…備前のお魚の種類の豊富さといったら!東京で魚が買えなくなる。
いつも威勢のいい大将がぎゅっと目をつぶり、遺影に向かって手を合わせてくれた。心づかいがうれしい。
日生名物「カキオコ」も。
B級グルメで人気があるカキ入りお好み焼き、久しぶりにいただこう。
大みそかも営業していた「もりした」へ。1000円。
カキが5、6個、お好み焼きに入っている。しょうゆとソースを半分ずつ塗ってもらう。
生後1歳半の丁稚ケイのため、お皿に盛ってもらった。
でも鉄板から直接、ヘラで切りながらアツアツを食べるに限る。やっぱり鉄板へゴー、しよう。
カニ、ブドウ…いただきものざんまい。
ベニズワイカニは鳥取で働く義兄が持ってきた。
「まだ動いてる!」甥っ子ユウは興奮した。「エサ、やらんと?」ごもっとも、だけれど。
ブドウは叔父から、つきたてのお餅はお向かいさんからいただいた。
田舎ってこうやって回っている。貨幣経済じゃないんだな。
円じゃなくて縁が流通する。いいな。
姉一家は福岡へ、私たちは東京へ別れた。
2013年の目標は?
車中で聞いた。6歳のユウ「人の話を最後まで聞く」リョウ「きちんと先生の話を聞く」。そんなので、いいの・・。
じゃ、オネーチャン。「寝ずに論文書く!」。
ハンドルを握る姉が叫んだ。ふふ、いつも双子を寝かしつけながら、一緒に眠っているからね。
「じゃ、チカチャン!」
はい、また本を出して広めたい。魂を込めて、1冊ずつ。
母のことをいかしたい。2013年、ちゃんと生き直す元年にしよう。