熱海で温泉卓球カルテット

午後3時、熱海駅へ。

「こだま」なら東京駅から45分、自由席で3570円。

在来線なら1890円で1時間53分。

子連れ旅のオキテは「足代をケチらない」。

とはいえグリーン車やビジネスクラスに乗れるわけじゃない。

でも安上がりを選んだはずが騒がれて途中下車し、「黙らせグッズ」にジュースやおもちゃを買えば、かえっておカネも手間もかかる。

1人なら迷わず在来線だが、人の迷惑になっては心が折れる。

「ムシロ度」が低そうな新幹線にした。

東京駅でお弁当を。

街と同様、お弁当も勝負しまくっていて目移りする。迷ったが「これぞ東京」を。「つばめグリルDELI」にした。豚肉ハンバーグ丼、680円を買った。車内に持ち込んで食べよう。

「こだま」なんて空いているだろう…そう思いきや意外に混んでいる。ヒヤヒヤする。

降りる前、バギーを方向転換するのに苦労する。もたもたして通路をふさいでしまった。舌打ちが聞こえる。

「降りるの?降りないの?」。せっつかれる。うひゃー。お代官様、すみません。

ぶらぶら女3人+怪獣がゆく。

熱海駅前のアーケード商店街を歩く。

温泉まんじゅう屋にひもの屋…「ど温泉」だな。「駅前温泉」の字ヅラにときめく。レトロな風情がたまらない。

あ、サンフランシスコ帰りのヨーコさんがいない。さっそく温泉まんじゅうを買っている。あ、負けた。勝ち負けじゃないか。

「さっきお昼食べたけれどデザートがまだで…」。分かるなぁ、甘いものがないと終われない。

写真を撮らせてもらおう。手にのせてもらう。「あちちっ」。ごめんなさい。

昭和初期の建物らしい熱海商工会議所や「熱海銀座」を通り過ぎる。

てくてく40分、おしまいに急な坂を登って宿に着いた。フーッ。畳の大広間にはしゃぐ。

お約束その1、おやつ交換会。

松江出身のヨーコさんは「路芝(みちしば)」を。ほろっとしてゴマが香る。お抹茶と味わいたい。

風流堂

東京生まれの東京育ち、ナオコさんは「粋な黒べい」。

赤坂の料亭街の黒壁をイメージしたという。「カステラをヨーカンで包んであるんですよ」。

クルミのツブツブ入り黒糖カステラが、黒くてほろほろした衣をまとっている。

ノリちゃんが言った。「シベリアケーキみたい」。おお、確かに。

「さかさまシベリアケーキ」だな。なつかしい。レトロな熱海にしっくりくる。

赤坂青野

岡山出身の私は「さくさくぱんだ」。

1歳7カ月になった怪獣ケイの「黙らせ」としてコンビニで買っていた。一個ずつ口もとが違う。「岡山のカバヤ食品です!」。オーナーのごとく胸を張る。

島根出身のヨーコさんは知っていた。でも東京のナオコさんはもとより、京都出身のノリちゃんも知らなかった。「えー、さくさくぱんだ、知らないの〜?」。ここぞとばかり中国地方勢が叫ぶ。

お約束その2、温泉卓球に燃える。

えへん、中学時代は卓球部だった。シェイクハンドのラケットを構える。

「サーッ」。愛ちゃん並みに叫ぶ。あれ、失敗。「ホントに卓球部〜?」。ノリチャンのいぶかしげな声が響く。パカーン、ポトーン。のんきなラリーが続く。

あ、ケイもラケットを握っている。ダブルスしよう。ちと無理があるか。マラソンは引退して今年は卓球、カムバックしようか。

ケイは人生初の温泉。

「うわーん」。ジャグジーのように泡がぶくぶく出る風呂だった。怖がって泣き出す。

あれ、プールで沈めたって泣かないのに。ぎゅっと抱きついて離れない。そういうキャラちゃうやろー、君。