お約束その3、ザ・旅館の朝食。
アジのひもの、温泉卵、揚げ天、かぼちゃのそぼろ、わさび漬け、湯葉…。
どれも丁寧な味がした。木のおひつもうれしい。ごはんをモリモリいただこう。
宿を出て街歩き。
海岸べりの遊歩道「熱海ムーンテラス」を歩く。
入り組んだ山なみに旅館やホテルが並び、青い海にヨットが浮かぶ。
「おお、モナコだ」「リビエラ海岸だ」。口々に言い合う。
「ふーゆのーりびえらー」。森進一をうなる。「古いよ、チカコサン…」。
昭和歌謡が青空に響く。
「じゃ、れっつらゴー」。ヨーコさんが声を挙げた。「ふるっ」。いいぞ、いいぞ、熱海にぴったり。
「みなみ製菓」に誘われた。
いかにもなつかしい看板だった。
「昭和45年ぐらいの創業」という。おお、私と同年代。当時と変わらなさそうなショーケースにくぎ付けになる。
レモンパイにときめいた。おいしそう。もっとひかれたのはクッキーだった。
その名は「メキシカン」。
「め、メキシカンですってぇ!」大げさに叫んだ。
絞り出しクッキーに赤いチェリーがちょこんとのっている。なぜメキシカン…。
サンフランシスコ帰りのヨーコさんはなつかしそうに言った。
「あぁ、何だかミッションで売っていそう」。
サンフランシスコのラテン街の名前を言った。
確かに。鮮やかな赤に素朴な風合い、ちょっとさびれたメキシコのベーカリーをほうふつとさせる…ような。
「だから<メキシカン>なんじゃない?」。ま、まさか。
お店の人に尋ねてみた。
「さぁ…先代が名前を付けたので…」。1袋買った。350円。
入れてくれた紙袋がまた、素敵だった。オレンジ色のヒマワリ柄に「みなみ製菓」と書いてある。
ザ・70年代、ニクイよ。紙好きとしては袋だけ大量に欲しい。
クッキーも期待通り、素朴な味わいだった。
「熱海銀座」をそぞろ歩く。
純喫茶「パインツリー」のサンプルがすごかった。
プリンみつ豆、あんみつ、クリームあんみつ…パフェも無数にある。間違い探しみたい。
金目鯛のひもの。
熱海といえば…の金目鯛が網に干されてのんびり、日光浴中だった。
そそられて店に入った。ふっくらとして、大きくておいしそう。3000円前後だった。
買おうかな。どうしようかな。魚が身近すぎた海育ちは思う。魚に3000円も出すのはちょっと…。手が出なかった。
私以外の3人は買っていた。ヨーコさんはさんざん迷った挙句、1枚は自分用に、もう1枚は実家に送っていた。
心からうらやましくなった。母が亡くなって2カ月になる。送る先がないのがさみしい。
ホッケ1枚とアジ3枚にした。合計500円、安い。
お昼ご飯に金目鯛の煮つけをいただこう。通りかかった座敷のある店に入る。
半身で1800円。かなり甘めのタレだった。ごはんにからめていただきたい。
帰りも「こだま」で。
3人と別れて駆け込んだ。フーッ、間に合った。
怪獣ケイは珍しそうに車窓をずっと眺めていた。在来線2時間も大丈夫だったかな。
晩ごはんはホッケのひもの。
さっそく焼いて食べた。塩けが控えめで、肉厚で。安心していただける。
ケイに出してみた。まず目玉の穴にプスーッと指を突っ込んだり、ひっくり返したり。
ああ、おもちゃにせんといて。身をほぐしてやろうとしたら、夢中になってスプーンで食べ始めた。
お、やるなおぬし。ひものボーイと名付けよう。いいけど私にもちょうだい…。