「いまなお旅の途中」
今回は知り合ってまだ間もない方のご登場!めちゃめちゃ面白い方です。大好きな店のひとつに、『チョウク』(大阪・福島区)というアジア系料理店があるのですが、そちらからご紹介いただいたのが知り合ったきっかけです。
お名前は本山尚義さん。『チョウク』には旅好きなお客さんもたくさんやってくるのですが、本山さんもそのようで、世界の各国を旅されて、オーナーシェフであるご自身のレストランでも世界中の料理を出されているとか。
え!世界中ってどの国とどの国?どんな料理?オペレーション的にどうなってんの?コックさんは一人?何坪?場所はビジネス街?食器はどんなん?
現場人丸出しの僕は、ついついそんな疑問ばかりが急浮上してしまいます。一度こうなったらじっとはしていられない。“膳”は急げ!?で、いつものスクーター・ホンダリード110cc(どうでもいい情報ですね)にまたがってR2号をひた走ります。
場所は神戸市東灘区のJR摂津本山駅からほど近い閑静な住宅街の一角にありました。レモンイエローの壁にワインのボトル。濃紺のテントには『「We meet “BOUNO”! Palermo Herb&Spice』の文字が。ウ〜ン、近所にうどん屋やコンビニがあろうとも、神戸という地名にこの佇まいがあるだけで、気分は一気にヨーロピアン情緒満点!
カランカラン、と鳴ったかは覚えてないけど、そんな気がするような扉を横に開けると、まず目に飛び込んできたのが、子供の笑顔の大きな写真でした。見渡せばいろんな国の子供の笑顔がずらりと壁に貼られてあり、なんだか笑い声が聞こえてきそうです。
この瞬間に、僕は本山さんと話す前から笑顔になってしまいました。(はまるの早すぎ)
さっそく料理を注文します。お昼からいくつものメニューが用意されていて、どれを頼むか目移りしていたのですが、「超おすすめ!名物」と書かれた「アラビアンライス?」なるものを注文。
それは、ひとつの器の中に、タンドリーチキンやカバブ、玉子焼き、そしてトマトソースがかかっていて、他にサラダやドリンクもセット。賑やかで楽しいランチセットでした。
食後、本山さんのお話を伺います。本山さんもそうだったらしいのですが、なんだか初めて会ったとは思えないような親近感がわいてきます。
挨拶はほどほどにして、一気に世界の旅や料理の話題で盛り上がりだしました。
壁には子供の写真以外に、ひときわ大きなカレンダーのようなものが貼られているのですが、これがなんと195カ国(*1)の料理すべての写真だったのです。ま、まさか、これを全部作ったというのでしょうか!?
(*1)国連加盟国基準のため、スタート時194カ国だったが現在1カ国増加。
「はい、そうなんですよ。全部作りました。いやぁ、長かった。2年もかかりましたよ」(*2)
実に穏やかな表情で、口を横に大きく広げて笑みを見せる本山さん。丁寧にゆっくりとお話されるのが印象的です。
(*2)「世界のごちそうアースマラソン」。2010年4月から2012年5月まで開催。
そこには、第1とか第2地点などとあり、その囲みの中には国名が4つずつ、最後の第49地点のみ2つの国名が記されています。これを2年がかりでやるということはいったい何日にいくつ作るのかな・・・・
「ええ、ひとつの地点を2週間かけて提供し続けるんです。第一地点だけ4カ国7品の料理を作りましたが、それ以降は4カ国4品。最初から最後まで制覇されたお客さんが33人、途中から参加された方を入れると55人のお客さんがゴールまで到達してます」
常連客のみなさんと共に店が歩んでおられることがよくわかります。実際に本山さんが旅をしてきた国は現在で30カ国ほどとおっしゃいます。その先々で料理を体得してこられたようですが、その他の164カ国の料理はどのように学ばれたのかが気になるところ。
「もちろんある程度の推測や勘はあったのですが、やはり正確性が大事だと思い、外国人のシェフに教えてもらったり、海外に住む知人を頼ったり、またあるときはネットで海外へ移住された方に問い合わせてみたりも。あ、そうそう、この辺を歩いていた外国人の方に声をかけたこともありましたね」
”なにっ、新手のナンパみたいですね!”
「ははははは・・・・・・いやね、本当に話しに乗ってくれる人もけっこういたんですよ。あなたの国の美味しい料理は何ですか?って感じで気軽に聞くと向こうも笑顔で応えてくれる」
”でも、料理を教わっても味のチェックもしたいところですよね?何がなんだかわからないものもあるだろうし”
「その通り。だからちゃんと味見もしてもらうんです。で、あんな感じこんな感じってアドバイスをもらって調整していく」
”しかし、195カ国とひと言で言っても大変だと思うなぁ。2週間で4品というと、厨房もイレギュラーの連続だし、だんだん自分が疲れてくるんじゃないですか?”
「確かにそうなんです、なかなかきつい。でも、いろんなことがあって面白くなってくるからこれまたもう少し先まで頑張ろうと思えてくる。でまた、昨年終わったばかりというのに、今度は世界のワインとチーズのアースマラソンを始めちゃいました」
”それって、まさにランナーズハイの状態ですね。走る喜び、作る喜びが体内に蓄積されていくんでしょうね”
話を伺っているうちに、本山さんから日本人離れした部分が少しずつ伝わってくるのでした。
通常、多くの日本人は下準備好きというか、勉強好き、いや、それこそが得意なことというイメージすら、少なくとも僕はあります。でも、それだけ知識と道具を揃えたというのに、意外にも本番に活用できなかったりする。時には本番に出たことがないということも。
でも、本山さんはきっと準備や勉強もしてのことと思いますが、何よりも本番を大切にする方だなと思いました。心を全開にして体験の中で学ぶ。つまり覚醒を繰り返して、少しずつ自分というものが確立されていく。そう、本山さんを見ていると店にいながらも旅の途中という感じがしてくるのです。
「実はこのイベントを始めるきっかけになったのは、客のひと言からでした。それは、ネパール料理なんて旨くない、という言葉。その方はネパールに行ったこともないのに、何でそんなことが言えるのかって、凄く悔しく感じました。だから、自分が本物の料理を作る、と思ったんです」
”で、その思いは通じましたか?”
「ええ、そう信じています。でも、やがてはこちらも色んな気付きが生まれてくるんです。例えばこんなことが。あるトルコ人の方にトルコ料理を食べてもらったときのこと。ウン、味付けはばっちり。でも、素材が違うからトルコじゃない、と言われたんです。あっ、そうか!って思いました」
”はいっ、そうですよね!同じタマネギでも国や地域によって、繊維の感じや味もまったく違いますもんね!”
「でしょ?そうなんですよ。日本にいるとどうしても、料理を評論の対象にしてしまいがち。不味いか旨いか、いかに本場本格か、なんてことばかりになってしまう」
日本列島総評論家ってやつですね。最近では食べ物をゲームの道具として投げたり潰したりするシーンもしばしば見受けます。いつのまにかグルメがおもちゃになってしまったような・・・。
「僕はそのとき、こう確信しました。いかに本場本格かなどということよりも、いかにお客さんがハッピーになれるか、そのお手伝いとなる料理を作りたいと。だから、今まで作ってきた世界の料理をアラカルトとしても出してますけど、うちの一押しはこのアラビアンライスなんです!」
”そうそう、これいったいなんなのかな、って思ってたんですよ。でも、見ても楽しい、食べても楽しいからそんな疑問は一瞬にして消えていきましたけど”
「それ、実はうちのまかない料理だったんです。元はスペインのアホ(ニンニク)のスープとアラブ系の料理を混ぜたぶっかけメシが始まり。スタッフたちが好きで、アラブ・ビエーン(スペイン語でグッドという意味)を食べたいというんですよ。それが訛ってアラビアンとなりました」
”ようするに世界を回って辿り着いた先がオリジナルだった、あるいは戻ったといったらいいのでしょうか。そういうことですね”
「あははは・・・うまいこと言いますね、ふむふむ、そんな感じ。あはははは・・・・」
損得や競うための料理ではなく、気持ちが朗らかになって笑うための料理がここにありました。
つづく
『Palermo(パレルモ)』
195カ国のワイン&チーズが楽しめるイベントを開催するなど、世界まるごとをキーワードにしたレストラン。レギュラーメニューだけでも、アジア系、地中海系をベースにした料理が60種類を越える。昼は定番のカレーランチ900円や、オリジナルのアラビアンランチが人気。ディナーは2000円〜とお手軽。ドリンクもノンアルコールとアルコールが、世界各国、オリジナルあわせて100種類以上と充実。閑静な住宅街にあり、隠れ家としてもよさそう。
●神戸市東灘区本山中町3-3-21ペガサス本山1F
078-431-5021 11:30〜14:30 17:30〜23:00(O.S 22:00)
水曜休
http://palermo.jp/