1ニュージーランドドル≒80円
オランダの肝っ玉母さん。
ハミルトン在住の友・フミコさんが毎月、通うタマヘリ・マーケットで出会ったのが、オランダ式ワッフル「ストロープワッフル」の作り手だった。
「チカコサン、興味あるかな…と思って」。メールを出し、会う約束まで取り付けてくれた。
好き好き、オランダワッフル。
パリに住んでいたころアムステルダムで初めて出会った。
キャラメルを挟んだ薄焼きワッフルで、コーヒー・カップの上にのせる。
湯気でキャラメルをやわらかくしていただくのだった。
湯気さえ無駄にしないのね。ケチ…いや、合理的なオランダらしい。感心してスーパーでどっさり買って帰った。
いまでは日本のスターバックスにもあったし、ローソンでも見かける。
オランダ出身ジャネットは62歳。
小鍋を片手にワイキ・ビーチから来てくれた。
車で1時間ほどかかる海沿いの街で、1人でワッフルを作っている。
オランダからニュージーランドに来たのは30年以上も前になる。
「もうすっかりキウイになったわ」。
大きな目を見開いた。英語教師として長く働いていたが4年前、ワッフルの作り手になった。
故郷の友人にレシピを訊き、ガス式のワッフルメーカーを取り寄せた。手作りにこだわり、甘さ控えめにしている。
持って来てくれた袋をさっそく開ける。コーヒーがないのが残念だけれど…。パクッ。
シナモンが控えめでちょうどいい。やさしい甘さも「肝っ玉母さんのワッフル」らしいな。
あ、甥っ子の7歳児・ユウがほおばっている。
初めて見る食べ物は「ナニコレ?」を連発して手をつけないのに。
ジャネットの笑顔マジックかも。
売り始めた当初はニュージーランドの人たちも「ナニコレ?」だった。
「小さな試食をふるまい、食べ方を説明したわよ」。少しずつ広まっていった。
本国ではコーヒーにのせて食べるのが習慣だけれど、こちらではマスカルポーネ・チーズやイチゴを添えてケーキ風にしたり、紅茶にのせたり。
「土地に応じて食べ方は変わって当然、いいんじゃないかしら」。おおらかなのだった。
モーテルの小さなキッチンで実演開始。
小鍋にはキャラメルが、タッパーには生地が入っていた。家庭用ワッフルメーカーに電源を入れて温める。
全粒粉、ゴールデンシロップ、バター、砂糖、塩、水、グルコース、卵、そしてシナモンが材料という。
おだんごのようにまるめた生地をワッフルメーカーに挟む。
1分ほど焼いたら取り出して、愛用のヘラでスライスする。
やらせてもらった。アッチッチ。
冷めるとホロホロするからやわらかくて熱いうちに。スピード勝負だな。指先の皮が厚くなりそう。
「最初のころは失敗作をたくさん、こしらえたわよ」。ジャネットが笑った。
温めたキャラメルを挟んだら出来上がり。
ホカホカのをいただいた。やっぱり出来たて、ほんわりした味わいがたまらない。
夫が12年前に亡くなり、3人の子どもたちも巣立った。
「いまが好きなことを好きなだけできて最高に幸せ」。本当にそうだろうな。
「レシピを教えるから日本でも売れないかしら」。手作りの味は人気が出るかも。
「オランダのお母さん手焼きワッフル」なんて行けそうだな。
日本だとパッケージが肝心かも。いまのロゴはしゃれているけれど正直、印象に残らない。
あとから撮った写真を見る。
甥っ子ユウとジャネットが顔を見合わせてワッフルをほおばっていた。そのまま包装に使えそうだわ。
帰国したら作ってみよう。ホットプレートかフライパンで、できそうだな。シナモン控えめにして、ジャネット風をめざそう。輝いている60代の手製ワッフル、いいな、いいな。
ジャネットに言う。「もうトシなだけよ〜」。照れていた。「誰かワッフルを作って売ってくれる人、日本で紹介してね!」。念を押された。うーん、ま、負けた…。
The Distel stroopwafels