2年半前のインド便91箱、目覚めよー。
丁稚ケイが眠っている間にやってしまおう。窓の外をのぞく。きょうも暑そうだな。
午前7時50分、あ、守衛さんたち、並んで後ろで手を組み立っている。インドでも朝礼あるんだ。すごい。
いくつか包みをほどく。タイムカプセルみたいだな。2年半前の私と出会うみたい。ドキドキする。ぎゃー。
白みそは「黒みそ」になっていた。
かんぴょうは干からびたトカゲのミイラみたいだった。
板こんにゃくは固形ではなく、どろどろの液体になっていた。フランス産製菓チョコレートも見つかった。
親指大サイズが詰まった1キロ入りだった。溶けてかたまったのだろう、巨大なかたまりになっていた。ひえー、倉庫、暑かったんだな。
「インドで<かもめ食堂>を開く」。
そう言ってインドへ一度は旅立ったのだった。ちょっとくすぐったい。
会社を辞め、パリをめざした初心にかえろう。おやつを作って、書く、に。
それにしても、もったいなさすぎる。ルールを決めた。
賞味期限を過ぎて半年以内のものは食べよう。
それ以外は処分しよう。機械になろう。感傷ごとゴミ箱に入れよう。
とはいえ迷う。レトルトの横浜シュウマイが出てきた。賞味期限は2011年だった。
おそるおそるチンしてみた。
うーん、こんなもののような、味が濃いような…。やっぱり止めておこう。
宮城・気仙沼の「黄金さんま 醤油味」、48缶も。
アサヒ・コム(現・朝日新聞デジタル)でコラムを書いていたころお世話になったヒロミさんが4年前、教えてくれた味だった。
ご飯によし、パスタによし。使っているのは老舗・八木澤商店の醤油にさんま、砂糖、みりん、食塩のみ。
缶詰とは思えないおいしさで、インドの友人たちに差し入れたものだった。
10缶以上もスーツケースに入れたら税関のX線検査に引っかかった。
「おもちゃだ」と言い張って強行突破したっけ。なつかしい。賞味期限は2012年9月だったが、とても捨てられない。
震災で幻の味に。
製造会社ミヤカンは東日本大震災で被害を受け、まだ再開されていないようだった。
インドで眠っていた2年半をへて幻の味になってしまった。大切にしたい。
日本の缶詰なら大丈夫だろう。開けてパスタにした。うん、あの味、あの味。
漬け汁だってインドでは貴重、1滴たりとも無駄にしない。ご飯にかけたり煮汁に回したりしていかそう。
まだまだ出てきた。
京都の長屋アトリエ「おやつ新報」で使っていた看板も発掘した。ぎゅっと抱きしめた。どこに飾ろう。
ちゃぶ台だってなつかしい。ひしと抱きつこう。ぎゅうぎゅうに10人座ってパーティー後、朝まで語り合った。「肉食の会」「切り絵の会」…いろいろなおやつイベントもした。
大量のラッピンググッズも。
アトリエをしていたころ、こんなにモノ、持ってたんだ。
2年半でテレビも電子レンジもテーブルも椅子もない暮らしに慣れた。かつての私がとてつもない物持ちに見える。
はなむけの品々も出てきた。
丁寧な手紙もそのままだった。大阪のKさん姉妹からエプロン、5児の母にしてワーキングウーマン、奈良のY子さんからは、ふきん。
思い出して涙が出てきた。ちゃんと、お礼を言ったのかな、私。2年半もかかってしまったが、応援を励みに思い切り生きよう。
アイスクリーム店でトラブル。
週末に外に出た。チェーンのアイスクリーム店に寄った。
まだ現金のルピーを持っていない。カードが使えるか2度も確認した。カードを通すマシンもあった。大丈夫だろう。
マンゴー味とチョコ味を頼み、カードを差し出したら「ノー」。
何じゃそりゃー。ATMを探してカードを突っ込むが、はじかれる。
食い逃げが頭をよぎる。いかんだろう、それは。現金やーい。
アイスを買うだけが2時間がかりになってしまった。ありがちだな…。