インド初めての手製おやつは…ずんだあん入り鯛焼き。
2年半前に送った荷物からワッフルメーカーを「発掘」した。鯛焼き用プレートもあった。小麦粉をミネラルウォーターで溶き、ずんだあんを挟む。
合いの手は、スーパーで買ったダノン社のマンゴーラッシー、200ml入り20ルピー(40円)。ちょっと人工的な色と味わい、どこかなつかしいような。
入国10日目、外国人登録へ。
入国後14日以内に住所のある役所に届けなければならない。1歳10カ月の丁稚ケイは登録しなくていいが、連れて行くしかない。抱っこする。
14:00、気温45℃、いざ外へ。
もわー。ドライヤーの前にずっと立っているみたい。暑いというより痛い。
不思議と汗は出ない。熱風、灼熱、太陽の力ってすごい。
まず写真スタジオへ寄って顔写真を撮る。パスポートサイズ8枚で80ルピー(160円)。
グルガオンの外国人登録事務所(FRO)へ。
裁判所や警察の入っている役所はエアコンなしだった。玄関を入る。すえたようなにおいがする。
エレベーターはあるが動いていない。えっちらおっちら3階まで階段を上がる。体重12キロのケイを抱っこしたまま、45℃か…。ハーッ、ハーッ。
書類が山積みになった古いオフィスへ。
パリに留学して外国人登録したのを思い出す。やっぱり狭くて混んでいて、時代から取り残されたような場所だった。
違うのは、はだしの子どもたち。
男の子と女の子が替わるがわるやってくる。手を差し出される。胸が痛い。いろんな大人に乞い、だれもに追い払われていた。
心がちくちくする。あの子たちは愛情を感じる場面があるのだろうか。1ルピー渡すと、もっとねだられるのだろうか。いつまでたっても慣れないな、きっと。
入り口で順番を待つ。気温50℃近いなか、エアコンなしの役所で顔色ひとつ変えず働いている。
待つ間、ケイが抱っこひもから降りたがった。ダメダメ。ここで床にひっくり返られては…。必死で押さえつける。
ようやく順番が来た。カウンターの前に立つ。眼鏡を外すよう言われ、顔写真を撮影された。
ようやく終わったー。
私の間抜けな顔写真が張られたA4サイズ1枚の登録証を受け取った。これがあればタージマハールだってインド人料金の20ルピー(40円)で入れる。ちなみに外国人は入場料750ルピー(1500円)になる。
デリーのハイアット・リージェンシーへ。
デリー在住2年のケイさん、リーさんとホテル内のイタリア料理店でランチした。ハーッ、別世界だわ。3年ぶりに出した発掘品のなかからパリで買ったスカートを見つけた。着ていこうっと。いそいそと出かけた。
外国人登録に1時間待った話をする。「グルガオンはまだいいですよ。デリーは3、4時間かかりますから」。そっか…。
ティラミスもコーヒーもおいしかった。ホテルのスタッフがケイをあやしてくれる。ディナーショーよろしく各テーブルを練り歩くケイに、どの席からもあたたかい目線が飛ぶ。
子連れ天国だわ、インド。
グルガオン在住の友サッチャンが「子どもを産んでからインドが好きになった」と言っていたっけ。こういうことなんだな。
18:00でも43℃、耳から暑くなる。
歩いて向かいの「サウスポイントモール」へ。
横断歩道はうっすら、見えるだけだった。あぶり出しかー。おまけに車道を数メートル、進まないとたどり着けない。意味がない…。
ケイを抱っこし、決死の覚悟で道を渡る。ひーっ、ひかないでー。
帰ればまた「モグラたたき」。
小さなトラブルが日替わりで起こる。停電は1日1、2回ある。そのたびにオーブンの時計をセットし直す。ネットも安定しない。
ミネラルウォーターのタンク取り換え、ギザと呼ばれる給湯器の容量アップを頼んだが。約束の13:30になってもだれも来ない。
すっぽかしー。
ギザは1日遅れでついた。で、ミネラルウォーターは?「明日になる」。ついたのは結局、3日後だった。
まだまだある。
ハンドシャワーはついていたが、水しか出ない。「そもそも水しか出ない」と言い張られて3人目でようやく、バスタブを外してお湯ボタンとつないでくれた。
もっともいまは水が湯になって出てくるので、ギザいらずだが。
シャワーはあるが、水が硫黄のにおいがする。気分はグルガオン温泉…トホホ。
食洗機はあるが、食洗機用の塩が見つからず、使えない。
新聞は毎日配達のはずが、初日に届いただけであとは来ない。
コンセントはあるが、電源が入らない。そう言ったらパネルを取り換えてくれたのはいいが、見事に壁に穴が開いていた。
インドだから仕方ない。さっさとあきらめる私に対して、相方ユウさんは違った。
「インド人だってできる人はできる。国際大会でインドチームが遅れた話なんて聞かないでしょう」。
それもそうだ。でも譲ったほうが、あきらめたほうがラクだ。主張するのは骨が折れる。どうすべー。