迷ったらゴー。
インドで最初に会った友・ミワさんが背中を押した。
彼女が仲間を集めて「おやつレッスン」を開かせてくれたから。長屋アトリエがあった京都時代を思い出した。
まともな日常の象徴「おやつ」で、人と人をつなぎたい。
いや、永遠の宴会部長の血が騒いだだけか…。
3日前から仕込み開始。
まずは私の代表作「黙らせサブレ」を焼いた。初心にかえって、再スタートする思いを込めて。
バターはインド産、豪州産を半々ずつ、粉は北海道産で。
喜びの絹さやゴマ和え。
「すぐやる課」トモコさんが「モダンバザール」というスーパーで教えてくれた。
「ここね、絹さやも、ある時はあるんですよ」。こっそり秘密の宝箱を見せるように笑った。へえ、いいこと、聞いた。
あるかな、どうかな。土曜日の午後、再訪した。量りの向こうにあった、あった。
うれしくて2袋買った。50g入り1袋で70 ルピー(140円)。
オクラとゴマ和えにした。器は…そうだ、京都の友人たちが3年前、はなむけに贈ってくれた京都・錦市場「有次」の鍋に入れよう。
ふたに「おやつ新報」と名前が刻まれている。
インドに送ったまま眠ること3年、やっとお披露目できた。これからバンバン使おう、大好きな友を思い出しながら。
自称オーガニックのマンゴープリン。
もう少しでシーズンが終わるマンゴーでデザートを作りたい。
いまなら路肩でもスーパーでも売っている。
でもなかなか手が出ない。どこかしら農薬っぽさを感じたり、ハエがぶんぶんたかっていたり。
「ネイチャーズ・バスケット」という名のいろんな意味で自然体な食材店へ行く。ここならどうかな。
入り口で狙いすましたように誘われた。「オーガニックマンゴーだよ」。
ホンマカイナ。小さい玉が4個で90ルピー(180円)だった。悪くなさそうに見えた。買ってみよう。よく熟したのを選ぶ。
スプーンでこそげとるだけでいい感じのピューレ状になった。正解かも。
味を見ながら生クリームと砂糖を加えて混ぜる。何と言う大ざっぱな。
生クリームはフランス産、1リットル入り675ルピー(1300円)。
うまく固まるかどうか心配で、少し多めのゼラチンを足してしまった。ちょっと硬めに仕上がった。
来年はもっとうまく作れるかな。
田舎風テリーヌ、好評。
韓国系食材店で買った冷凍の豚バラブロックに秘蔵の豚レバーを混ぜた。
ピスタチオは近所のスーパーで買い、じっくり炒めたアメ色玉ねぎを足す。ナツメグはガリガリ、シアトルの友エツヤさんが贈ってくれたグラインダーでおろしたてをふりかける。
豚バラの塊はパリの料理学校時代、支給された「ギロチン」と言う名の肉切り包丁でたたく。2歳の丁稚ケイが眠ったあと夜な夜な、バンバンッー。我ながら恐ろしい姿…。
18:00、乾杯のあいさつ。
子どもたちを含めて30人が来てくれた。
「○○会社の誰それさん」とか「誰かの奥さん」とか、ここでは関係ない。老いも若きもみんなまとめてミックスジュース!が好きだから。何じゃそりゃ。
肩書きなんて取っ払いたい。名前で呼び合いたい。
「ヒトシ」「キョウカ」「ノリコ」…。ネームカードに特徴を書き添えた。「ランナー」「布の伝道師」。話すきっかけになったらいいな。
「今夜はかえしませんよ、うっしっし」。あごのヨダレをふくマネをする。
たちの悪い酔っ払いのようなあいさつになってしまった。
だれかれとなく話し、子どもたちが走り回る。
はちきんマダムのサヨさん、シフォンケーキ名人モトコさんが台所で洗い物をしてくれていた。申し訳なくて顔が赤くなる。
「いや、お話しながらしているだけだから」。モトコさんがこともなげに言った。
午前1時のお赤飯。涙。
サヨさんが差し入れてくれていたのをいただいた。
しみじみ、おいしい。こういう気配りのできる大人に私もなりたい。不惑を過ぎて大人も何もないか。
ああ、だから止められない。1人で胸が熱くなる。
大好きな人たちと出会えた。
日本から離れた場だからこそ、インドだからこそ、お互い助け合っていこう。私もまたバージョンアップしよう。
デリー郊外グルガオンに住み始めて1カ月半が過ぎた。まだ手探りだけれど、よーいどん。天国在住7カ月のお母さん、見ていて。