パリ、チョコレートの旅<2>

1ユーロ≒130円。

6:00、シャンドマルス公園をジョギング。

エッフェル塔を見上げる。何とも言えない気分になる。パリに住んだ8年前を思い出す。会社を辞めて単身、渡仏。「いったい私はどうなるんだろう」と思いつつ、塔の下をくぐって語学学校へ通った。「モヤモヤ時代」がよみがえる。

まだまだ足らない。もっと進化したい。

前だけ向いて歩いて行こう。エッフェルを背にセーヌ沿いを走った。

「ミネラルウオーター界のドンペリ」ことシャテルドンを初めて飲んだメグミさんは「うーん、さすが石の国の水!」とうなっていた。

す、鋭い。超硬水、本当にその通りだな。

8:30、「プラザ・アテネ・パリ」へ。

今回はチョコレートの旅だから「パン・オ・ショコラ」を攻めたい。まずは5つ星ホテル「プラザ・アテネ」へ。

世界トップのパティシエ・ミシャラク氏が指揮をとるヴィエノワズリ(ペイストリー)たちを試したい。

シャンデリアの下がる空間に足を踏み入れる。「やっとパリに来た気がします〜」。東京から昨夕、着いた編集者メグミさんが言った。

ふふふ、昨夜は日本文化会館で待ち合わせた。そのままスペイン居酒屋へ向かったからね。

銀のトレイにてんこ盛りにされた小さなクロワッサンにパン・オ・ショコラ・・・。小躍りしそう。どれから攻めよう。全部いただくよー。

飲み物はもちろん、ショコラ・ショー。

スタッフが「自家製です!」と強調して言った。のどにビターな酸味が通り抜ける。いいチョコなんだろうな。

めくるめくクグロフ。

「フジサン!」と2回、ダンディーなスタッフがウィンクして言ったのがアルザス名物・クグロフだった。

手元に置かれたパンフレットを見る。「レモンとオレンジの花の水の香り」とあった。レモンはともかく、オレンジの花の水って得意ではないんだよね、私…。

ぱくっ。口にする。あ、うそ。そこいらのクグロフとは別世界だった。ふわっとして、上品なオレンジの花が香る。シロップがじゅわっ。

なんて心憎い味なんだろう。コノコノッ。人生最高クグロフに認定しよう。プラリネとヘーゼルナッツ粒入りチョコ棒の入ったパン・オ・ショコラもよかったけれど。

ジャムやハチミツの小瓶8種類も試したい。

クリのはちみつをひとなめしたメグミさんが言った。「ううーん、これは…」。

「カブトムシになった気分」。

さすが編集者、その通りかも。5つ星ホテルにいながら、セミが大合唱する夏休みの日々がよみがえる。クヌギっぽい。樹液の香りがした。

コンチネンタル41ユーロ。卵料理、シリアル、ヨーグルトがつくアメリカン57ユーロ。

11:00、イエナの朝市へ。

三ツ星シェフ御用達の八百屋、チェボーさんの店でクラクラした。ミズナ、カラシナ、ルバーブ…どれも元気いっぱい、みずみずしい。いまの私には刺激的すぎる。あー、インドに買って帰りたい。

14:00、アラン・デュカス氏の料理学校へ。

スターシェフが営むアマチュア向けの教室で、チョコレートのクラスに申し込んでいた。

ピカピカの最新鋭キッチン、用意されたエプロン…。ワクワクする。

お題は「ブラウニー&トリュフ」。

焼きっぱなしのチョコ菓子・ブラウニーも超有名シェフの手にかかれば別物だった。

松の実入りの薄いココア生地を焼く。キイチゴのマーマレードをつくり、上に流す。さらにガナッシュを塗るという3層仕立てだった。こ、これがブラウニー…。

トリュフにはたっぷり、オレンジの皮を削り入れた。

口にオレンジの香りが漂って幸せな余韻が広がる。バスクのトウガラシ「ピマン・デスプレット」をたっぷり散らし入れたトウガラシ入りも素敵、素敵。

メグミさんが言った。「これ、もらったらうれしいかも〜」。もう少し作りやすいレシピにしてみよう。

2時間余りの講習、90ユーロ。

19:00、百貨店ル・ボンマルシェへ。

キッチン用品売り場に料理本コーナーがあった。パリに来るたびチェックするけれど毎回、発見がある。当たり前か。

「ほぼ初パリ」のメグミさんと沈没してしまった。「この本のフォント、好き〜」「見てみて、こっちの写真は好き」。2人で盛り上がり、企画をあたためる。最高の打ち合わせになった。

20:30、近くのカフェ「オ・モカ」で軽い夕食。

「サラダの虫」と化した私は本日のおすすめ、イタリア風サラダにした。13ユーロ。むしゃむしゃ、葉野菜をかじる。メグミさんと反省会する。「きょうは100点満点!」

本当に。明日もベストを尽くそう。いい本のためなら何でもするわ。