子どものころはブドウ=キャンベルだった。
岡山・赤磐(あかいわ)市で訪ねたブドウ農家で偶然、なつかしい味に再会した。
瀬戸内の入り江が見える備前の祖母宅へ行くと、よく出された。
茶色のお盆にキャンベルの房、1つか2つ。
畳の上においたまま、瓶底めがねの祖父がつまむ。「食べられえ」。勧められて手を伸ばす。
たくましい味わい、甘くて酸っぱくて。これぞブドウだな。当たり前だと思っていた。
こんなにおいしいのに、どうして消えちゃったんだろう。
元々は松林だった土地でキャンベルを40年以上、作り続けるカツウラさんは言った。
「大きゅうて、あもうて(甘くて)、種なしが流行りじゃけ」。市場から消えつつある。
カツウラさんのキャンベルも、いまはほとんどワイン用だという。
ちょっともったいない。
マユミさんが言った。
「ワインもちょっと、ラベルとかが…」。言いにくそうにしている。特産品販売所で売っているという。どれどれ。
「これ里わいん」。1200円。
ううむ、マユミさんが言うとおり、若い女性が買うかと言ったら…もごもご。
おまけにキャンベルで作っているとも、ロゼとも何とも書いていない。
「担当外じゃけど」。
そういいつつ赤磐のまちづくりに燃える市職員のモリモトさんとマユミさん、単なるチャチャ入れ、120%担当外の私で3者会談する。
赤磐の名産といえば…。
桃、ブドウ、黒豆…。いろいろあるけれど、岡山じゃ当たり前というか、印象に残らない。
「忘れられたブドウ」を赤磐の名物にしよう。
「赤磐はキャンベルの里、ということにしましょう」「じゃ、そういうことで。3者会談で決めましたから」。
勝手に盛り上がる。
「ワインを使ったケーキを売り出すとか」「備前焼のボトルに詰めるとか」。夢は広がる。待って、待って。
干しブドウにしたら。
さらに濃厚な甘みになりそうだし、そもそも国産レーズンは珍しい。
枝付きの干しレーズンならばなおうれしい。
マユミさん、さっそくトライ。
キャンベルは終わってしまい、ベリーAで実験した。
オーブンに5時間も入れて、縁側で1日、ひなたぼっこ。「干しぶどう」らしくなったようだった。
「レーズンは苦手ですが、この<焼かれ干しぶどう>は甘みがギュッとしておいしい」。
干しブドウには、チョコレートを。
パリ6区・セーヌ通りにある食材店「ダ・ローザ」のソーテルヌ(貴腐ワイン)漬けレーズンチョコが大好きだから。
封を開けると甘くてまろやかな香り、どこにもない。
9月のパリ滞在でも7袋を買ってきた。180g入り、11ユーロ。
もう日本でも買えるようになるかも…そうなると「パリでしか買えない土産」じゃなくなって悲しいような、うれしいような。
ないものは作ろう。思いきり、ぜいたくに。
パリから帰国した4年前から、バレンタインには手作りしている。
ソーテルヌはお高いから、甘口ワインで。チョコを溶かして流すだけだけれど、これでもかとレーズンを入れて、手作りならではのリッチさで迫りたい。誰にじゃ…。
赤磐産キャンベルを赤磐産ワインに漬けてチョコがけしたら…もう夢心地に違いない。
☆ワイン漬けレーズンの板チョコ(15センチ×11センチ1枚)
レーズン50g、ワイン(甘口)100㏄、製菓用チョコレート100g
1. レーズンはワインに1晩以上、浸しておく。ブドウが70〜80gになる。
2. チョコレートは刻んでボウルに入れる。ボウルがぴったりはまり、わきから湯気が出ない大きさの鍋に水を張る。ボウルの底が少し当たる程度。弱火にかける。40℃〜50℃になれば火を止める。
3. チョコ入りボウルを鍋にはめる。ゴムべらでゆっくり混ぜる。完全に溶かす。
4. A3サイズに切ったオーブンシートをバットに敷く。汁けを切ったレーズンを薄く広げる。
5. チョコ液をレーズンにまんべんなくかける。バットをかたむけてすみずみまで流す。冷蔵庫で1時間以上、冷やし固める。
6. そのままオーブンシートに包んで贈っても、手で割ってラフに楽しんでも。
<メモ>
・チョコは水けを嫌うので気をつけて。
・ワインは甘口、ロゼなどお好みのもので。ラム酒やシードルでも。
・チョコレートは仏ヴァローナ社のカライブ(66%)がお気に入り。ちょっと酸味があって、レーズンにあいます。