ひまわりみたいな女性だな。
西シアトルに住むローリーにあってすぐ思った。大阪のライター・ハルミさんの友だった。
背が高くてとびきりの笑顔で、ブーツがよく似合う。シアトル市広報から融通の利くテレビ局の仕事に就くのは、2歳の双子シルヴィとブリンを夫ジェフと育てているから。
「いまがプレシャス・タイム」。
我が子をいとおしそうに見つめた。そうだよね。痛いほど分かる。彼女と私は同い年だから。この瞬間はいましかない。
友は手を挙げてくれた。
2人が出会ったのは10年前、ワシントン大学写真コースの説明会だった。
ガッツの人・ハルミさんは車社会シアトルで4年間、バスと徒歩で暮らしていた。受講したいけれど夜間クラス、帰りは午後10時を過ぎてしまう。さすがにバスに乗るのは避けたい。
だれか送ってくれませんか。思い切って尋ねた。
「近くだから一緒に帰りましょう」。
手を挙げてくれたのがローリーだった。かっこいい。彼女ならそう言ってくれそうだな。
誕生日、緑の箱入りチョコチップクッキー。
ハルミさんの3月の誕生日、ローリーが贈ってくれたのが「おっきくてリッチでザ・アメリカーンな」チョコチップクッキーだった。
仕事が忙しいのに、お菓子作りが得意でもないのに、私のために。
「ほんとにおいしかったな」。緑色の箱は10年後の今でもシアトルの思い出の品々を納め、大切にとっているのだとか。
おっきなクッキー、彼女そのもの。
欠かさず週2回、送ってくれたローリーの「これぞアメリカ」な寛大な心も「おっきなクッキー」に重なって、いまも胸に焼き付いている。
ローリーも目を細めてなつかしそうに、いとおしそうに言った。「10年前のこと、よく覚えていたわね、ハルミ」。
思い出の味、10年ぶりに再現してもらった。
キッチンの天井からお鍋やフライパン、めん棒、ケーキ型がぶら下がる。何ておしゃれ!子どもの手が届かない工夫でもあるのだろう。
ところどころシミのあるレシピカードが台にあった。「ママのチョコレート・チップクッキー」。カレッジの友人サラから15年ほど前、教わったレシピという。
チョコチップクッキーにしては珍しく、オートミール入り。
台にはおなじみのブランドの巨大な缶が並んでいた。双子ちゃんだからこのサイズなんだな。まさに「ママのクッキー」だな。
「私は手が遅いのよ」。首をすくめながら、でも楽しそうにカップでザッザッと粉を入れていく。
アイスクリームディッシャーで、どっこいしょ。
茶色の生地が出来たらアイスクリームディッシャーを取り出した。天板にのせるんだな。ひと山のせる。え、また。2すくいも。そりゃあデカいのができるわ…。
オーブンで15分ほど焼いた。だらりーん。
ちょっとひび割れて広がった。おお、これぞ「どアメリカ」だわ。拍手して喜んだ。いかにもおいしそう。
ハルミさんはまず、端っこをパクリ、かじった。パァッと笑顔になった。思わず手を振った。クッキーが踊る。
「そうそう、これこれ、この味」。
次に2つにした。割る、というより曲げる、という感じかも。焼きたてのせいもあるけれど、冷めてもカリカリじゃない。
大きくて厚みがあって、ほんわりしっとり。Chewy(チュウィー)な食感、いかにもだな。
記念撮影しよう。ローリーは娘と踊り始めた。くーるくる。上手だな。
両手をあわせたほどある巨大サイズが40枚ほど焼けた。アルミ箔に包み、水色のフェルトの花柄バッグに詰めて、私にも持たせてくれた。
わ、かわいい!花のアップリケが飛んでいた。真ん中の大きい花はローリーそのものだな。ひまわりかガーベラか。私が最初に思ったことを見透かされたみたい。小さい2つの花は彼女の娘か、ハルミさんと私か。大切にとっておこう。
☆チョコチップ・クッキー(直径9センチ12枚)
バター110g、砂糖120g、薄力粉130g、卵1個、オートミール80g、チョコレートチップ170g
1. 室温においてやわらかくしたバターに砂糖を入れる。泡立て器でクリーム状に。
2. 溶き卵を散らし入れる。泡立て器で混ぜる。ふわっとツノが立てばOK。
3. オートミール、チョコチップを入れる。ゴムべらで混ぜる。
4. 薄力粉をふるい入れる。切るように混ぜる。白いところがなくなるまで。
5. オーブンシートを敷いた天板に大さじ3ずつ落とす。厚み1.5㎝、直径7㎝ぐらいの円盤にする。薄くし過ぎない。
6. 200℃にオーブンを温め、170℃で11〜14分焼く。焼き過ぎない。
<メモ>
・砂糖は三温糖、グラニュー糖、メープルシュガー、どれでもOKです。
・オートミールの替わりに同量のココナッツロング(またはファイン)でも。
・チョコチップがなければ板チョコを砕いても。
・重曹を入れないレシピにしたので、焼く前に平らに広げてください。でも薄くし過ぎないで。